研究課題/領域番号 |
15K07759
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
山本 欣郎 岩手大学, 農学部, 教授 (10252123)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 喉頭 / 化学受容 / 呼吸 / 免疫組織化学 / カルシウムイメージング / ラット |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、ラット喉頭粘膜の化学受容細胞の形態を詳細に検討した。喉頭粘膜上皮に分布する孤在性化学受容細胞、神経内分泌細胞および刷子細胞の免疫組織化学的特性を検索したところ、それぞれGNAT3、SNAP25およびVillinに対する抗体に対し陽性を示した。GNAT3陽性化学受容細胞は、管腔および基底部に向けた細胞質突起を有し、突起の一部が上皮表面に面していた。また、GNAT3陽性化学受容細胞PLCβ2およびIP3 receptor, type3に陽性を示した。SNAP25陽性神経内分泌細胞は細長い頂上部突起を有し、一部の細胞は5HTまたはCGRPに陽性だった。これらのことから、ラット喉頭粘膜の化学受容細胞はGNAT3陽性を示し、神経内分泌細胞および刷子細胞とは免疫組織化学的に完全に区別される独立した細胞群であることがわかった。さらに、GNAT3陽性細胞をホールマウント標本で観察したところ、GNAT3陽性SCCは、喉頭蓋喉頭面に広く分布し、披裂軟骨声帯突起を覆う粘膜上皮に多かった。また、SCCには全ての細胞に共通して管腔側に伸長する突起が存在し、その突起の他には長い突起は持たないもの、基底部に細長い突起を1-2本伸ばすもの、細かく分岐した突起を持つものなど、多様な形態をもつものが認められた。また、SCCには核周囲や細胞質突起と接触する扁平なP2X3陽性神経終末や、細胞に巻きつく細い数珠状のCGRP陽性神経終末が観察された。 また、カルシウムイメージングにより、喉頭粘膜上皮の苦み物質(キニーネ)に対する反応性を検索した。粘膜上皮中の一部の細胞でキニーネにより細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に増加することがわかった。反応を示す細胞の多くは、細胞質突起に乏しい単純な形態をしていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の実験では、ホールマウント標本の作製と免疫組織化学、共焦点レーザー顕微鏡による観察により、喉頭粘膜では孤在性化学受容細胞、神経内分泌細胞および刷子細胞という全く性質を異にする三種の細胞が散在していることがわかった。また、孤在性化学受容細胞および神経内分泌細胞では、P2X3陽性神経終末が密に分布することから、ATPを介した信号伝達があると予測された。一方で、消化管に分布する刷子細胞に類似するタフト細胞は化学受容よりもむしろ免疫に関与することが報告されており、刷子細胞に対する神経分布が少ないことから、形態学的には化学受容能を有する可能性は低いと判断された。 カルシウムイメージングでは標本の作製を改良し、スライサーを用いずに剪刃で粘膜を切り出し、コラゲナーゼによって前処理することにより効果的な実験が実現した。この工夫によって精度が高く再現性の良い実験が実現した。キニーネによって細胞内カルシウムを増加させる上皮細胞の免疫組織化学的同定では、蛍光抗体法を酵素抗体法に変更することで染色が可能となったが、酵素消化により上皮細胞間の接着が弱くなり細胞形態が保持できていないという問題点が明らかになった。さらに改良を要する。 電気生理学的実験では、気管呼吸下で喉頭への刺激を行うことが可能となった。喉頭粘膜へのキニーネ刺激により、スパイロメトリーによる呼吸パラメータ、心電図、喉頭筋の筋電図の変化を取得する実験を開始している。一方で、ステンレス双極電極による前喉頭神経の記録は技術的に安定していない。
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今後の研究の推進方策 |
喉頭化学受容細胞の形態学的分類および化学受容細胞―神経複合体における感覚神経の神経化学的特徴の項では、新しい解析手法により孤在性化学受容細胞、神経内分泌細胞および刷子細胞の解剖学的分布、細胞形態、免疫組織化学的特徴が概ね解明されたので、投稿論文を作成する。 カルシウムイメージングは前年度に引き続き、味物質(甘味、塩味、苦味、酸味、うま味)を中心として化学受容細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の変化を検討する。特に、浸透圧変化により神経活動が変化するという報告があるので、濃度を変化させながら実験を行う。また、前年度の検討から、イメージング後に免疫組織化学的な細胞同定した場合、細胞形態が変化していることがわかったので、免疫組織化学は細胞内に含有するタンパク質の同定を目的に行う。 喉頭化学受容細胞により生じる反射の電気生理学的検索では、気管呼吸として上行性に気管から鼻腔に向けて刺激溶液を還流する。刺激溶液としては、これまでに反応する細胞が存在することがわかったキニーネ溶液とする。迷走神経反射を見るために甲状披裂筋の筋電図の変化、気管に挿入したカニューレを介してフローヘッドにより呼吸量、呼吸数の変化を記録し、喉頭粘膜への化学物質投与が呼吸に変化を及ぼすかを確かめる。また、同時に心電図を記録することにより、血管系への影響も同時に観察する。さらに、求心性神経の記録として、高感度増幅装置を用いて双極電極による上喉頭神経の活動変化の記録を試みる。
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