喉頭の化学受容細胞-神経複合体は、化学受容細胞と求心性神経終末で構成される感覚受容器である。本研究では、免疫組織化学的手法で喉頭粘膜に存在する化学受容細胞の形態、分布および感覚神経支配を明らかにするとともに、カルシウムイメージングと呼吸反射実験によって喉頭化学受容細胞-神経複合体の機能的意義を解明することを目的とした。喉頭粘膜の化学受容細胞は、舌味蕾のⅡ型細胞のマーカーであるGNAT3に対して陽性反応を示し、孤在性に分布するもの、味蕾様の細胞集塊を形成するものに大別できた。このうち、孤在性化学受容器は喉頭蓋軟骨および披裂軟骨を覆う粘膜に多く、側方にのびる2-3本の細長い突起を有するものと側方の突起が乏しいものが存在した。味蕾様構造は喉頭蓋辺縁部および披裂喉頭蓋ヒダに存在し、GNAT3陽性細胞間には舌味蕾のⅠ型細胞のマーカーであるSNAP25陽性細胞が認められた。GNAT3陽性孤在性化学受容細胞および味蕾様構造のGNAT3陽性細胞にはP2X3陽性神経終末が接しているのが観察され、味蕾様構造ではP2X3陽性神経終末がSNAP25陽性細胞を取り囲むのも観察された。カルシウムイメージングでは、10 mMキニーネ塩酸塩により喉頭粘膜の上皮細胞の一部で一過性の細胞内Ca2+の上昇が記録された。反射実験では、喉頭粘膜を10 mMキニーネ塩酸塩による刺激によって、分時呼吸回数が118.9±11.5回から85.6±12.9回に減少した。この呼吸抑制反射は、両側の前喉頭神経を切断することにより消失した。以上の結果から、喉頭の化学受容細胞は喉頭粘膜に広く分布しており、喉頭腔からの化学刺激を受容した後にP2X3陽性神経終末により、中枢へ情報を伝達する構造と考えられた。生理学的には、化学受容細胞は少なくとも苦み刺激で反応し、前喉頭神経を介して呼吸抑制反射を行う感覚受容器として働くことが示唆された。
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