研究課題/領域番号 |
15K07761
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
浅野 敦之 筑波大学, 生命環境系, 助教 (10630981)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精子 / 鳥類 / 膜ラフト / 細胞内シグナリング / 受精 / 先体反応 |
研究実績の概要 |
精子は構造的のみならず機能的にも区画化された希な細胞である。遺伝子の転写・翻訳活性を欠く精子は、受精を達成するために予め自己に組み込まれた細胞内カスケードを効率的に利用しなければならない。しかしながら、どのようなメカニズムで特定の細胞内区画において最適時期に必要な機能を発揮するのか不明な点が多い。膜ラフトはステロールや膜タンパクを豊富に含む機能性生体膜ドメインで、様々な細胞において細胞現象の制御に関わっていることが明らかになってきた。最近我々は、この膜ラフトが哺乳類および鳥類の精子に存在することを明らかにした。そこで、膜ラフトのニワトリ精子における機能を解明するため、本年度は膜変化を起点とする細胞内シグナリング経路の探査を行った。 その結果、ステロール流出による膜ラフトの変化は、ニワトリ精子のタンパク質チロシンリン酸化を促進するが、プロテインキナーゼA(PKA)によるタンパク質リン酸化を阻害することが分かった。この阻害効果には、プロテインホスファターゼが関与している可能性が示唆された。またニワトリ精子におけるPKAによるタンパク質リン酸化経路には、哺乳動物精子における先行研究と同様に、アデニル酸シクラーゼおよびSRCキナーゼが関与していることも分かった。 さらに、ステロール流出はニワトリ精子の運動パターンおよび先体反応性に劇的な変化をもたらすことが明らかになった。 以上の結果、膜ラフトはニワトリ精子において細胞内シグナリング経路を調節することで、運動性および先体反応性の制御に関わっている可能性が示唆された。哺乳類精子と比較して、鳥類精子における細胞機能制御機構の理解が著しく遅れている。本実験の成果は、鳥類の人工繁殖技術の確立と共に、精子機能構造の比較生物学的研究に有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鳥類精子における膜ラフトの細胞内シグナリング経路へ及ぼす影響に関する実験は、当初の予定通り進み、新知見が得られている。ステロール流出によるタンパク質チロシンリン酸化が精子受精能に及ぼす影響については、哺乳類精子と同様に鳥類精子もステロール流出により先体反応性が促進される結果が得られており、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今までの結果、ステロール流出によるタンパク質チロシンリン酸化が先体反応を促進することが示唆された。今後は現在までの知見の発展を目指し、タンパク質チロシンリン酸化に関わるシグナル分子の同定、およびステロール流出から先体反応性向上までのシグナル経路の全容解明を進める。
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