研究実績の概要 |
本研究は、同一ドナー細胞由来の体細胞クローン牛を用いて、ゲノムワイドなエピジェネティクス解析を行うことを目的として行われた。エピジェネティクスとは、ゲノムを修飾し、DNA塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現を制御するメカニズムであり、発生・分化に大きく関与すると共に、がんをはじめとした疾患にも関与していることが近年の研究から明らかになっている。これらの研究は主にマウス・ヒトを中心として進められてきているが、基本的なメカニズムは家畜でも共通であり、本研究課題では研究の遅れている家畜のエピジェネティクス解析を進めるために研究を行った。 遺伝的要因を揃えるために、同一ゲノムを持つ同一ドナー細胞由来の体細胞クローン牛を材料にDNAメチル化に着目して研究を行った。これらの同一ドナー細胞由来の体細胞クローン牛間のDNAメチル化状態と非クローン牛間のDNAメチル化状態を比較することで、エピジェネティックな変化が遺伝的要因によるものなのか、それとも環境的要因によるものなのかを明らかにすることができる。本研究では、5頭の同一ドナー細胞由来の体細胞クローン牛および5頭の非クローン牛の種々臓器からDNAを抽出し、bisulfite sequence法による解析を行った。解析領域は、インプリント遺伝子H19, PEG3, X染色体不活化に関与するXIST、およびゲノムワイドなDNAメチル化状態を反映させるために反復配列Satellite I/IIを選んだ。 解析結果から、一部の臓器・遺伝子においてはクローン牛間の差の方が非クローン牛間より有意に低かったものの、ほとんどの結果において有意な差は生じていないことが明らかとなった。これらの結果から、エピジェネティックな違いはジェネティックな要因というよりも、発生過程・成長過程における環境的要因の影響に大きく支配されていると考えられる。
|