研究課題/領域番号 |
15K07765
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
松山 勇人 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (80345800)
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研究分担者 |
齋藤 正一郎 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (60325371)
海野 年弘 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90252121)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ムスカリン受容体 / 腸神経 / 平滑筋 / 情報伝達 |
研究実績の概要 |
腸の蠕動運動は,腸壁に加わった伸展刺激が複数の神経細胞を経由して平滑筋細胞に伝わった後,平滑筋が収縮することで生じる。腸壁に加わった刺激を最終的に平滑筋へ伝える神経(運動神経)の細胞体や神経終末には,コリン作動性神経から放出されたアセチルコリンが作用するムスカリン受容体が存在し,運動神経の伝達物質放出を促進,あるいは抑制性に制御している。しかし,同受容体にはM1~M5までのサブタイプがあり,伝達物質の放出に関わる各サブタイプの役割は十分に解明されていない。本研究では,大腸における蠕動の誘発・調節メカニズムの全容を解明する一環として,各サブタイプの欠損マウスを用いて腸壁内の運動神経-平滑筋間におけるムスカリン受容体サブタイプの役割・機能を明らかにすることを目的とする。実験には各サブタイプの欠損(KO)マウスを用い,野生型の場合と比較した。その結果,大腸平滑筋細胞に作用することで記録される抑制性接合部電位(IJP)の振幅の大きさは,M2受容体サブタイプ欠損(M2KO),M3KOおよび両受容体サブタイプ欠損(両受容体KO)マウスで記録されたものが野生型と比較してそれぞれ約37%,約75%および約68%と有意に小さかった。この実験結果はM2受容体およびM3受容体が運動神経からのATPの放出を促進性に調節していることを示唆している。これまでに,M3受容体が運動神経からのATPの放出を促進性に調節しているということは知られていない。また,M2受容体サブタイプが神経伝達物質の放出を促進しているという報告もない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していなかったことが起きたため,進捗状況はやや遅れていると判断した。 その内容は以下のとおりである。 非選択的ムスカリン受容体拮抗薬のアトロピンを用いて,野生型マウスの大腸平滑筋細胞から記録される抑制性接合部電位(IJP)に対する効果を調べた。その結果,各ムスカリン受容体欠損(M2KO,M3KOおよび両受容体KO)マウスを用いて得られた結果と比較して,野生型マウスではIJPを小さくする程度が弱いことが分かった。このことは,M2受容体およびM3受容体による運動神経からのATP放出の促進機序が単純ではないことを示唆している。ムスカリン受容体サブタイプにはM1からM5までの5つのサブタイプが知られている。従って,非選択的ムスカリン受容体拮抗薬のアトロピンを用いて得られた結果は,M2受容体およびM3受容体以外のムスカリン受容体サブタイプ(M1,M4,M5受容体)の機能も阻害されたことが原因の1つと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
M2受容体あるいはM3受容体のどちらか一方に比較的選択的なムスカリン受容体拮抗薬を用いて,野生型マウスの大腸平滑筋細胞から記録される抑制性接合部電位(IJP)に対する効果を調べる必要がある。近年,M2受容体およびM3受容体のうちM2受容体だけに選択的に結合する化学物質が発見されている。同化学物質はムスカリン受容体に対する刺激薬のアセチルコリンのM2受容体に対する刺激効果を増強することが培養細胞において報告されている。同化学物質のIJPに対する効果を調べるだけでなく,M2受容体に比較的選択的に結合するムスカリン受容体拮抗薬の効果も調べれば,M2受容体サブタイプの運動神経における役割が明確になるはずである。また,M3受容体サブタイプに比較的選択的に結合するムスカリン受容体拮抗薬を用いて野生型マウスの大腸平滑筋細胞のIJPに対する効果を調べれば,M3受容体サブタイプの役割も明確になるはずである。一連の実験結果を踏まえて,運動神経からのATPの放出量を,M2受容体サブタイプ欠損(M2KO),M3KOおよび両受容体サブタイプ欠損(両受容体KO)マウスで測定し,野生型で測定されたものと比較する。この実験で得られた結果が,IJPを指標に導かれた仮説を支持するかどうか検討する。
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