研究課題/領域番号 |
15K07769
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 和重 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (60231221)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | EphA / ephrin-A / 単球 / マクロファージ / 血管内皮細胞 / インテグリン |
研究実績の概要 |
1. 不活性型EphA2発現単球/マクロファージ(Mφ)株:細胞内ドメインをEGFPに置換したEphA2(EphA2ΔC-EGFP)を発現する単球/Mφ株J774.1と単球株U937の亜株を作製した。親株と亜株で内因性EphA2発現レベル,インテグリン(数種のα,β鎖)の発現レベルに大きな差はなく,EphA2とインテグリンの接着解析に有用と判断した。EphA2ΔC-EGFPは内因性EphA2の自己リン酸化に影響を及ぼさないことを明示し,細胞接着に差が認められた場合はEphA2ΔC-EGFPに起因すると判断された。 2. 単球/MφのEphA2と細胞接着:J774.1とU937およびEphA2ΔC-EGFP 発現亜株を使用し,ICAM1,VCAM1(細胞膜に発現するインテグリンリガンド)とFibronectin,Collagen(細胞外基質のインテグリンリガンド)に対する接着性をCell adhesion stripe assayで,EphA2とインテグリンの物理的結合性をPull-down assayで検討し,(1)EphA2の細胞内シグナルはインテグリンを活性化し接着性を増強させること(単球/Mφでは新知見),(2)EphA2の細胞外ドメインはβ2インテグリンとICAM1,VCAM1の複合体と結合し接着性を増強させる現象(新規の制御機構)を見出した。 3. 単球/Mφの血管内皮細胞層通過とEphA2:EphA2ΔC-EGFPはJ774.1の血管内皮細胞層の通過を抑制することが判明した。現在,定量解析を行っている。 4. 組織在住Mφの分離と増殖:クッパー細胞,赤脾髄Mφと赤脾髄細網細胞の分離・増殖法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インテグリンの活性化制御を介するEphA2の新規の細胞接着制御機構を発見できた。研究成果は国際誌Cell Adhesion & Migration(IF値4.5,2007年に発刊)に掲載され,掲載5ヶ月の現時点でMost read articlesのトップ9にランクインし,高く評価され期待以上の進展と判断できる。内因性EphA2の自己リン酸化阻害を目的にEphA2ΔC-EGFP発現亜株を作製したが,EphA2細胞外ドメインとインテグリンとの物理的結合に起因したインテグリンの結合活性増強機構の発見は想定外であった。 (1)EphA2,ephrin-A1ノックダウン単球/Mφ作製が困難な点,(2)静脈投与では炎症組織・固形腫瘍に浸潤する単球/Mφの割合が著しく低い点も当初予期できなかった事項である。Cos細胞でEphA2,ephrin-A1発現ノックダウン効果を確認済みのshRNAベクターを,遺伝子導入したJ774.1亜株でノックダウン効果がなかった理由は分からない。単球/Mφ系株で目的タンパクのノックダウン亜株を作製した報告はほとんど見当たらないため,作製困難と判断し,今後は成果が期待できるEphA2ΔC-EGFP発現亜株で研究を進める。単球/Mφ株の静脈投与では,選択的に肺に浸潤し,固形腫瘍や炎症組織の浸潤は僅かであった。白血球の生体投与実験の中に動脈投与の報告が散見され,肺への浸潤・集簇を避けるためと推測した。本研究はトランスレーショナルリサーチを想定して展開するため,動脈内投与は現実的ではなく,計画したin vivo実験に関する事項は見直す必要があると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. EphAシグナルのインテグリン制御:仮説1「単球/Mφと血管内皮細胞(炎症部位)の接触で発生する強いEphA/ephrin-Aシグナルは単球/ Mφの血管内皮細胞層通過を制御する」の検証のため,単球/ MφにおけるEphAのインテグリン制御機構の全容解明をin vitroで行う。これまでに,EphA2は複数の機序でインテグリンを制御して単球/Mφの細胞接着性を制御することを明らかにした。白血球はインテグリンの結合活性を変遷させて血管内皮細胞への接着性を変え,血管内皮細胞層を通過すると考えられている。J774.1とU937の親株とEphA2ΔC-EGFP 発現亜株,EphAとインテグリンの阻害剤を活用して,Cell adhesion stripe assay,免疫沈降とブロット,Beads adhesion assayなどでEphA2のインテグリン制御機構を時間軸で展開し解析する。HL60から分化誘導した単球も使用する。 2. EphA/ephrin-Aシグナルと在住Mφの組織定着:研究成果を基に仮説2を「EphA/ephrin-Aシグナルは在住Mφの定着を制御する」と微修正した。平成27年度に赤脾髄Mφとクッパー細胞の分離・増殖法を開発した。Cell adhesion stripe assay,セルアナライザーによる発現解析,Beads adhesion assayなどを活用して,赤脾髄Mφとクッパー細胞を対象に仮説を検証する。Mφの移植治療は開発段階にあり,効率的な移植技術の開発は重要な研究課題となる。赤脾髄Mφとクッパー細胞の培養技術を独自に開発し研究の先駆性が得られたので,今後,仮説2にも重点を置き研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
Cos細胞でEphA2およびephrin-A1ノックダウン効果を確認済みのshRNAベクターを単球/Mφ株に遺伝子導入した亜株(複数のクローン)でノックダウン効果が認められなかったため,ノックダウン細胞を使う実験ができなかった。同様に,単球/Mφ株を静脈投与した場合,目的の固形腫瘍や炎症組織への浸潤細胞数は僅かであり,選択的に肺に,また,ある程度の割合で脾臓に浸潤した。この結果,in vivo実験計画の見直しが必要となり当初計画したin vivo実験を中断した。
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次年度使用額の使用計画 |
作製した単球/Mφ株のEphA2ΔC-EGFP(細胞内ドメインをEGFPに置換したEphA2)を発現する亜株EphA2ΔC-EGFP-J774.1とEphA2ΔC-EGFP-U937は,インテグリンを介するEphA2シグナルの細胞接着制御機構を調べる上で非常に有用な細胞であることが,平成27年度の研究で判明した。この細胞とインテグリンの機能阻害剤を使いEphA2シグナルのインテグリン制御機構を検討するin vitro実験を計画に加え実行する。また,平成27年度の研究で仮説2「EphA/ephrin-Aシグナルは在住Mφの定着を制御する」を検証するための前提条件(在住Mφの分離・増殖とEphA,ephrin-A発現)が脾臓において成立し,静脈内投与によるJ774.1の脾臓への十分な浸潤が検証されたため,脾臓を対象としたin vivo実験を積極的に進める。
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