研究課題/領域番号 |
15K07770
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
竹中 重雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (10280067)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ビタミンB12 / 神経疾患 / 代謝異常 / RNAi / CRISPR/CAS9 / 神経細胞分化 / 酸化ストレス / 赤芽球 |
研究実績の概要 |
ビタミンB12(B12)は哺乳類の必須栄養素の一つであり、分子内のコリン環のCo原子の上方にメチル基が配位するメチルB12とアデノシル基が配位するアデノシルB12が、それぞれメチオニン合成酵素(MS)とメチルマロニルCoAムターゼ(MCM)の補酵素として機能する。B12の欠乏によって悪性貧血が生じること、そして様々な神経症状を発症することが知られている。また、近年の疫学調査から血中B12量の低下がアルツハイマー病に代表される認知症の発症リスク因子であることが報告されている。一方、B12代謝に関与する複数の遺伝子が同定され、それらの変異によっても様々な神経疾患が生じることも報告されている。しかしながら、それら神経症状の発症機序は明らかではない。そこで、申請者はヒト神経芽腫細胞でB12代謝酵素RNAiを実施し、B12代謝異常モデル細胞を作製し、レチノイン酸(ATRA)による神経様突起の形成が抑制されることや酸化ストレスに対する感受性が高まることを見出した。そこで、H28年度にCRIPSR/Cas9法によるB12代謝遺伝子ノックアウト細胞の樹立を試み、ATRAによる分化の抑制が生じることを見出した。 また、悪性貧血は赤血球の分化異常によると仮説を立て、ヒト造血幹細胞モデルK-562をB12代謝遺伝子RNAi法でB12代謝異常モデル細胞を作製し、赤芽球への分化過程への影響を検討した結果、MCM低下モデル細胞ではヘモグロビン合成の低下、分化マーカーであるCD71陽性細胞数の増加、CD235a陽性細胞数の低下がみられた.また,MS低下モデル細胞はヘモグロビン合成に影響がなく、CD71発現に有意な減少が見られたことから鉄要求性が低下したことが考えられる.従って、B12代謝異常は血球の分化にも影響を与えることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
B12代謝異常モデル細胞をRNAi法によるB12代謝酵素ノックダウン細胞とCRISPR/Cas9法によるノックアウト細胞の両方の作製をH27から28年年度に進めてきた。前者はドキシサイクリン誘導プロモーターを持つもので、標的遺伝子mRNAの発現量を低下させる。後者は標的遺伝子の機能を喪失させる。これまでにそれぞれの手法を用いてB12 欠乏症モデルをホモシステイン症モデル、メチルマロン酸症モデル、それらの併発モデルを、それぞれ神経幹細胞モデルSH-SY5Yと赤芽球分化モデルK-562で作製した。神経細胞モデルではノックダウンモデルによって得られた結果とノックアウトモデルによって得られた結果は類似したものであったが、ノックアウトの影響によると思われる分化前の状態での増殖の低下現象が見られた。この結果は通常の生育のためにもB12代謝が重要な位置を占めることを示唆する。一方、赤芽球分化モデルでは、当初期待していた巨赤芽球の形成は認められなかったが、B12欠乏やその代謝異常が、その分化過程に様々な影響を与えることが示唆された。よって、細胞を用いたモデル実験は概ね順調に進展している。 神経の高次機能を解析するにはB12代謝異常またはB12欠乏が必要であり、特にマウスが好適であるが、これまでにマウスでの適切なモデルがなかった。そこで、食餌性B12欠乏マウスの作製を試みた結果、欠乏飼料を自由摂取させたのち12週間の飼育によってB12欠乏マーカーである血中メチルマロン酸とホモシステインが検出される欠乏動物を得た。この結果は食餌性B12欠乏モデルマウスが比較的短期間で作成可能であることを示唆するものである。
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今後の研究の推進方策 |
B12の代謝異常またはその欠乏が様々な神経疾患、特に認知症に関与することが示唆されているが、その発症機序は明らかでない部分が多い。特に近年の認知症患者の増加は社会的負担を増大させていることからも、その対策が強く求められている。申請者はこれまでにB12代謝異常モデル細胞の作製を行い、B12代謝異常遺伝子ノックダウン神経幹細胞モデルでは神経細胞への分化が抑制されることや酸化ストレスへの感受性が増大することを明らかにしてきた。しかしながらノックダウンでは遺伝子の機能を完全に停止することができないため、その表現系は限られたものであると考えられたため、CRIPR/Cas9法によるB12代謝遺伝子ノックアウト細胞の作出を試み、これまでにホモシステイン症とメチルマロン酸症を併発するcblC遺伝子ノックアウト細胞の作出に成功した。現在までにそのクローンがcblC遺伝子ノックダウン細胞モデル同様にATRAによる分化誘導に対しての反応性が低く、ノックダウン時と同様の細胞形態を示すことを見出した。今後、その作用機序解析のため細胞分化マーカーの検討を実施し、B12代謝異常による神経細胞分化抑制機構の解明に努める。 一方で、食餌性B12欠乏モデルマウスの作製に成功したことから、H29年度はB12 欠乏状態における神経学的な試験を実施する。これまでに認知症発症リスクと血中B12濃度の低下が高い相関を示すとした報告があることから、その現象がマウスモデルにおいても同様に見られるとした仮説に基づいた試験を実施する。恐怖動機付け試験、オープンフィールド試験、ビー玉覆い隠し試験等の実施によってB12欠乏と認知機能や不安障害の発症の関連性を明らかにすることを試みる。特にこれらは高齢において発症する症候群であることから高齢マウスの使用を予定している。
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