ビタミンB12(B12)は哺乳類の必須栄養素の一つであり、分子内のコリン環のCo原子の上方にメチル基が配位するメチルB12とアデノシル基が配位するアデノシルB12が、それぞれメチオニン合成酵素(MS)とメチルマロニルCoAムターゼ(MCM)の補酵素として機能する。B12の欠乏によって悪性貧血が生じること、そして様々な神経症状を発症することが知られている。また、近年の疫学調査から血中B12量の低下がアルツハイマー病に代表される認知症の発症リスク因子であることが報告されている。一方、B12代謝に関与する複数の遺伝子が同定され、それらの変異によっても様々な神経疾患が生じることも報告されている。しかしながら、それら神経症状の発症機序は明らかではない。そこで、申請者はヒト神経芽腫細胞でB12代謝酵素RNAiを実施し、B12代謝異常モデル細胞を作製し、レチノイン酸(ATRA)による神経様突起の形成が抑制されることや酸化ストレスに対する感受性が高まることを見出した。また、ヒト造血幹細胞モデルK-562において同様の手法で作成したB12欠乏モデルでも分化過程に異常が見られた。そこで、H29年度にCRIPSR/Cas9法によるB12代謝遺伝子cblCノックアウト細胞の樹立を試み、その細胞の樹立に成功した。その細胞においても、RNAiモデル同様に分化能の低下、酸化ストレス感受性の亢進を確認できた。また、神経における影響は成体の認知機能に影響することが予想されることから、B12欠乏モデルマウスを作製し、認知機能への影響を恐怖動機付け試験、オープンフィールド試験、ビー玉覆い隠し試験から検討した結果、多くの項目では影響が見られなかったが、恐怖動機付け試験において学習機能の低下を示唆する結果を得た。
|