研究課題/領域番号 |
15K07776
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
土佐 紀子 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20312415)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 動物アレルギー / 実験動物 / 胸腺 / レパトア形成 / Tリンパ球 / 環境要因 / Th1/Th2バランス / Lipocalin |
研究実績の概要 |
実験動物アレルギーは、動物実験従事者において職業病として重大な問題となっている。これまでの予防対策は、アレルゲン暴露を防御により回避する方法が取られてきたが、実験動物アレルギーは増えている。アレルゲン暴露回避の限界を鑑み、実験動物アレルギーの抜本的な予防対策ための実験動物アレルギー発症機構を解明することを最終目的としている。 本研究では、1) 胎仔期と幼若期の環境要因がアレルゲンである外来性Lipocalinによるアレルギー発症に影響を与えるかTh1/Th2バランスに注目して解析し、2) その影響には胸腺における内在性Lipocalinに対するレパトア選択が関与しているか明らかにすることを目的としている。 初年度(平成27年度)においては、以下のことを明らかにした。出生後、感染源への暴露が多いとTh1優位に、感染源への暴露が少ないとTh2優位となり、このTh2優位になることがアレルギー発症の引き金となると考えられている。マウスの近交系のなかで、SPF環境下においてC57BL/6系統(C57BL/6)はTh1優位、BALB/c系統(BALB/c)はTh2優位であることが明らかとなっており、前者は感染源への暴露が多い環境を、後者は暴露が少ない環境における免疫応答を反映していると考えられる。両系統にアレルゲンとしてイヌLipocalin(Can f 1)精製タンパク質を単独投与しアレルギーが誘導されるか解析した。血液中のIgEの上昇および分離した脾細胞におけるIL-13の産生はBALB/cに比べC57BL/6で少なく、Th1優位のC57BL/6ではアレルギーの誘導が抑制されることを明らかにした。一方、Can f 1をTh2アジュバントであるアルミニウム塩(Alum)と混合投与することにより、Th2の免疫応答を強制的に誘導した状態では、血液中のIgEの上昇および分離した脾細胞におけるIL-13の産生は両系統で同じ程度であった。これらの結果により、Th2優位となる環境が実験動物アレルギーの発症と関連することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成27年度)の研究実施計画は、免疫応答がTh2優位の生理的状態であることが実験動物アレルギーの発症と関係するか明らかにするため、1) 遺伝的に免疫応答がTh1優位の近交系マウスとTh2優位の近交系マウスにおける外来性Lipocalin(アレルゲン)の感作誘導の違い解析する、2)同一系統でのTh2優位とTh1優位の生理的状態における外来性Lipocalinの感作誘導の違いを解析する、の二つの計画を立てていた。 1)の計画に関しては、「研究実績の概要」で報告した通りである。2)の計画に関しては、当初、無菌環境で飼育することによりTh2優位の、コンベンショナル環境で飼育することによりTh1優位の免疫応答を誘導し実験を行う予定であったが、無菌動物の価格、無菌環境を維持するための飼育機材および維持費が高く予算的に厳しいことと、さらにコンベンショナル動物の入手が困難であり維持をする際の感染症のリスクが高いことから、以下の実験に変更した。Th2アジュバントであるアルミニウム塩(Alum)を外来性Lipocalinと混合投与することにより、Th2の免疫応答を強制的に誘導し、外来性Lipocalinの感作誘導について解析した。結果は「研究実績の概要」で報告した通りである。免疫応答がTh2優位の生理的状態であることが実験動物アレルギーの発症と関係することを示す結果をさらに得るために、妊娠中のマウスがTh2優位になることに注目し、外来性Lipocalinを投与した妊娠C57BL/6マウスにおいて非妊娠C57BL/6マウスと比べてIgEが上昇することを確認する実験を次年度(平成28年)に実施する。また、コンベンショナル飼育環境についての影響については、抗原の暴露を居住空間に常在している菌体・節足動物由来の特定の抗原に絞り、次年度(平成28年)に予定している胎仔期および幼若期の環境要因が実験動物アレルギーの発症に影響するか解析する実験に組み込み実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はでは、1)環境要因と実験動物アレルギー発症との関連性についての解析、2)内在性Lipocalinの実験動物アレルギー発症への関与に関する解析、3)内在性Lipocalinに対するTリンパ球レパトア選択の実験動物アレルギー発症への関与に関する解析、を計画している。 1)に関しては、「現在までの進捗状況」で述べた通りに研究を進める予定である。すなわち、次年度(平成28年)は、胎仔期および幼若期における抗原の暴露を居住空間に常在している菌体・節足動物由来の特定の抗原に絞り、当初予定していたTh2アジュバントであるコレラトキシン、易熱性毒素、Der p 1(ダニアレルゲン)、対照としてTh1アジュバントである完全フロイドアジュバントに加え、外来性Lipocalin(Can f 1)およびプロテインAについても同様に解析する。 2)に関しては、内在性LipocalinであるMus m 1のKOマウスが作出された論文が発表されたため、そのマウスを供与してもらうことを計画中である。このマウスにおいて外来性Lipocalin(Can f 1)の感作誘導が増強された場合は、Mus m 1を高発現する近交系マウスや人為的に作成したマウスにおいてCan f 1の感作誘導が抑制されるか解析を行い、次いで、Mus m 1が高発現する環境要因を解析する。Mus m 1と実験動物アレルギー発症との関連性が低い場合は、Lipocalinはスパーファミリーを形成していることから、他のLipocalinの可能性を検討し研究を進める。 3)に関しては、当初の予定通りTDAG8-Tgマウスを使用した実験に加え、2)の実験で明らかとなった実験動物アレルギー発症と関連する内在性LipocalinのKOマウスに、胎仔期(妊娠期)から胸腺分化がほぼ完了する生後5週間までアデノウイルスベクターで内在性Lipocalinを高発現させ、その後、外来性Lipocalin(Can f 1)により感作しアレルギーが誘導されるか解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、無菌環境で飼育することによりTh2優位の、コンベンショナル環境で飼育することによりTh1優位の免疫応答を誘導し実験を行う予定であったが、無菌動物の価格、無菌環境を維持するための飼育機材および維持費が高く予算的に厳しいことと、さらにコンベンショナル動物の入手が困難であり維持をする際の感染症のリスクが高いことから、計画を変更し、Th2アジュバントであるアルミニウム塩(Alum)を使用する実験と妊娠マウスを使用する実験を行うこととした。アルミニウム塩(Alum)を使用した実験は年度内に実施したが、妊娠マウスを使用した実験は次年度で計画している実験に組み込んだ方が効率良く実験結果を得ることができるため、次年度に実施する。
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次年度使用額の使用計画 |
妊娠C57BL/6マウスと非妊娠C57BL/6マウスに外来性Lipocalin(Can f 1)を昨年度と同じ条件で投与し、血中のIgEおよび分離した脾細胞からのIL-13の産生を測定するために次年度使用額を計上する。
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