研究課題
日本の人獣共通フィラリア(オンコセルカ)症の病原体であるイノシシ寄生性Onchocerca dewittei japonica (O. d. j.) の伝播サイクルを解明するために、症例が最初に発生した大分県において、イノシシ囮法で誘引されたブユ成虫のオンコセルカ幼虫の自然感染と吸血源動物の調査を行った。イノシシに集まってきたブユ成虫を採集し、飽血した個体のブユ種を同定後、虫体を解剖し、オンコセルカ幼虫の検索を行った。さらに、ブユ虫体中の血液のDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの遺伝子解析を行い、ブユが吸血した動物種の同定を試みた。現在解析途中で、ブユからオンコセルカ幼虫は見出されていないが、ヒト吸血性キアシツメトゲブユからニホンイノシシと思われる遺伝子型が検出された。これまで、感染実験により、ブユ成虫体内でO. d. j.の幼虫がミクロフィラリアから第3期幼虫(感染幼虫)まで育つこと、野外調査により、採集したブユ成虫にO. d. j.の第3期幼虫が自然感染していることを明らかにしてきた。これはイノシシ寄生性O. d. j.の媒介者がブユであることを示唆するが、ブユが実際にイノシシを吸血するかは不明であった。今回の結果は、ヒト吸血性ブユがイノシシを吸血することを直接的に証明するもので、これによりO. d. j.の伝播サイクルを完全に解明することができた。また、大分県以外の地域でのフィラリアの感染状況を調べるために、人体症例が発生した広島県と島根県のブユ成虫のO. d. j.の自然感染と吸血源動物の調査、および鹿児島県のイノシシのフィラリア感染の調査も実施中である。
3: やや遅れている
平成27年4月に、研究代表者が所属部署を異動し、研究環境が変わったため、研究遂行に少し遅れが生じた。
平成28年度中に研究環境を整え、交付申請書に記載した実施計画書に沿って研究を遂行する予定である。但し、吸血性昆虫ヌカカの採集は時間的に難しい可能性があるので、少なくとも吸血性昆虫ブユの採集を行い、フィラリア幼虫の自然感染と吸血源動物の調査を行う予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
Parasitology International
巻: 64 ページ: 493~502
doi:10.1016/j.parint.2015.07.001
巻: 64 ページ: 519~521
doi:10.1016/j.parint.2015.07.006