研究課題/領域番号 |
15K07783
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
白砂 孔明 東京農業大学, 農学部, 助教 (20552780)
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研究分担者 |
岩田 尚孝 東京農業大学, 農学部, 教授 (50385499)
桑山 岳人 東京農業大学, 農学部, 教授 (40215124)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 妊娠 / 加齢 / 炎症 / 老化 |
研究実績の概要 |
近年の社会情勢やライフスタイルの変化に伴い、30代後半で挙児を希望する女性が増加し、出産年齢の高齢化が進んでいる。高齢妊娠では妊娠高血圧腎症・早産などのリスクが高まる。母体の加齢で卵子数が減少するだけではなく、卵子内の活性酸素種(ROS)の蓄積・ミトコンドリアの機能異常・異常受精の増加など複合的原因で卵子の質が低下し、加齢に伴い妊孕性が急激に低下する深刻な状況になる。申請者らは、妊娠成立には卵子の質的改善に加えて母体環境の整備が重要であり、母体加齢によってその環境が破綻している可能性を考えている。 妊娠は“半異物”である胎児を許容する自然免疫寛容と考えられ、母体の免疫系と炎症が関与する。正常な妊娠状態では炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスが適切に制御され、子宮内ではマクロファージ・NK細胞が集積して着床促進に働く。一方、老化個体では①炎症性サイトカイン産生や免疫細胞が活性化され、②老化に関与するAdvanced glycation end-products(AGE:糖化最終生成物)などが蓄積し、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の罹患率が増加することが良く理解されている。以上から、母体加齢により妊娠免疫応答や子宮環境の破綻が起き、加齢に伴う妊孕性低下や妊娠機能異常が惹起されると考えた。 本研究から母体の加齢による妊娠制御機構の破綻の分子的機序の提案が期待され、妊孕性低下の治療・予防法開発に展開するための基礎的データを提示できれば、学術的・社会的なインパクトは大きい。さらに、局所炎症反応の制御が可能になれば、習慣流産や着床不全などの自然炎症が関与する疾患にも応用が可能である。自然炎症による生殖疾患の新たな概念の確立を目指し、適切な妊娠免疫反応を可能にする自然炎症の理解に繋げたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象の性質上、ヒトの加齢に伴う妊孕性低下の詳細なメカニズムを解明することは難しい。そこで申請者らは、“ウシ”をモデル動物として加齢が妊娠成立に及ぼす影響を検討しることにした。ウシは他の実験動物と比較して繁殖寿命が長く(マウスは1~1.5歳齢が限度)、本研究室では15~20歳齢(ヒトの30~40代に相当)まで検体採取・研究が可能である。 卵管は、卵子および精子の輸送、卵子と精子の受精の場、受精卵の初期発生の場として妊娠に有用な“器官”である。ヒトでは加齢に伴い妊孕性が低下するが、不妊の原因として卵管の炎症・卵管留水種・卵管閉塞などの卵管障害が関連することが多い。本研究では、加齢に伴い卵管機能の低下や過剰な炎症状態が引き起こされることで、妊娠率の低下につながるのではないかと仮説を立て、ウシをモデルとして検証した。初年度の研究では、屠畜場由来の若齢(50か月齢未満)および老齢(120カ月齢以上)ウシ由来の卵管細胞を使用し、本学生物資源ゲノム解析センターの次世代シーケンサーを用い、老化に伴う遺伝子発現群の変化を網羅的に解析した。 次世代シーケンサーの解析から、老齢由来の卵管細胞は若齢由来の卵管細胞に比べてコラーゲン合成遺伝子群の発現が低く、炎症関連遺伝子群(IL-1、TNF、MMP-9、EDN1など)の発現が高かった。また、若齢ウシ由来の卵管細胞と比較して老齢ウシ由来の卵管細胞は、絨毛の運動率・細胞増殖率が低下し、炎症性サイトカイン産生・活性酸素量(ROS)・細胞硬化の指標であるF-actin量が増加した。以上から、老齢由来の卵管細胞は細胞運動・増殖機能が低下することに加え、炎症状態に陥りやすいことが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
卵管細胞を用いた研究: 次世代シーケンサーの解析により、若齢および老齢由来の卵管細胞で様々な違いがあることが分かってきた。このデータから重要因子の候補をピックアップして解析を続けていく。また、若齢および老齢由来卵管細胞と受精卵を共培養した場合、胚発育にどのような影響の差がでるのか、その因子は何かを探索していく。老齢由来卵管細胞を用いた場合に受精卵の発育が悪くなった場合、どのような機序で悪くなるのか、どのような処置をすることでそれが改善されるのかなど、基礎的検討を継続する。 子宮細胞を用いた研究: 卵管と同様に、加齢に伴い子宮機能の低下や過剰な炎症状態が引き起こされることで、妊娠率の低下につながるのではないかと仮説を立てている。そこで、屠畜場由来の若齢(50か月齢未満)および老齢(120カ月齢以上)ウシ由来の子宮細胞を使用し、本学生物資源ゲノム解析センターの次世代シーケンサーを用い、老化に伴う遺伝子発現群の変化を網羅的に解析する。また、妊娠認識に必須であるインターフェロンタウに対する応答性についても検討することで、どのような機序で加齢に伴う子宮妊孕性の低下が起きるのかを突き止める。
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次年度使用額が生じた理由 |
卵管および子宮細胞の次世代シーケンサー解析を実施するため、若齢および加齢個体に分類してサンプリングをすることに注力したため、想定よりも培養用消耗品にかかった経費が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次世代シーケンサー解析が進行しているため、すぐに培養実験に進むことが可能であり、そのための遺伝子発現解析試薬・タンパク質発現解析試薬などに経費を使用する予定である。
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