近年の社会情勢やライフスタイルの変化に伴い、30代後半で挙児を希望する女性が増加し、出産年齢の高齢化が進んでいる。申請者らは、妊娠成立には卵子の質的改善に加えて母体環境の整備が重要であり、母体加齢によってその環境が破綻している可能性を考えた。 卵管は受精の場や初期発生の場として妊娠に有用な“器官”である。屠畜場由来の若齢および老齢ウシ由来の卵管細胞を使用し、次世代シーケンサーを用い、老化に伴う遺伝子発現群の変化を網羅的に解析した結果、老齢由来の卵管細胞は若齢由来の卵管細胞に比べてコラーゲン合成遺伝子群の発現が低く、炎症関連遺伝子群の発現が高かった。また、若齢と比較して老齢ウシ由来の卵管細胞は、絨毛の運動率・細胞増殖率が低下し、炎症性サイトカイン産生・活性酸素量・細胞硬化度が増加した。以上から、老齢由来の卵管細胞は細胞運動・増殖機能が低下することに加え、炎症状態に陥りやすいことが考えられた。 子宮は受精卵の着床、胎盤形成および胎児発生に重要な器官である。屠畜場由来の若齢および老齢ウシ由来の子宮内膜細胞を使用し、次世代シーケンサーを用い、老化に伴う遺伝子発現群の変化を網羅的に解析した結果、老齢由来の子宮内膜細胞は若齢由来の細胞に比べてインターフェロンシグナルや炎症関連遺伝子発現が高いことが分かった。 加齢ウシ卵管細胞において炎症関連因子S100A9が上昇することを見出したことから、機能解析を行った。その結果、S100A9を処理すると①精子生存性が低下する、②体外受精には影響しない、③初期胚発生中に細胞内小胞体ストレスを増加させることで発生が停止する、④卵管上皮細胞の炎症を惹起することなど、様々な影響を及ぼすことが判明した。
|