研究課題/領域番号 |
15K07789
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
揚山 直英 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター, 主任研究員 (50399458)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 霊長類 / MRI / 再生医療 / 幹細胞 / 移植 / 疾患モデル / 循環器疾患 / 内分泌疾患 |
研究実績の概要 |
本研究では霊長類疾患モデルおよびその解析手法とMRIによる細胞動態追跡システムを組み合わせることにより、再生医療における有効性と安全性を担保する独自の評価システムとして樹立する事を目的としたものである。 昨年度までに樹立した超常磁性酸化鉄微粒子(SPIO)および蛍光磁性体粒子Fluorescent Iron Particles(FIP)の細胞標識手法を用いて実際に高率に標識したサル骨髄由来間葉系幹細胞の生体への移植を開始した。MRIを用いてサル下腿部腓腹筋および心筋に移植した標識細胞をリアルタイムで可視化し、その細胞の動態を追跡した。また、移植された個体はこれまで樹立した超音波診断、レントゲン等の検査に加え新たに樹立した血中ガスの測定等血液検査なども駆使してより詳細に検査し、実際の移植による安全性・有効性評価も行った。さらに、移植した部位の組織切片において免疫染色法やベルリンブルー法等も駆使し、移植部位における細胞の確認を行った。その結果、MRIを用いて移植した標識細胞が腓腹筋および心筋の移植部位に留まって検出される事が確認された。さらに病理組織学的検索を行った結果、免疫染色によってその移植細胞が移植部位にて間葉系幹細胞の形態を保ちつつある事が確認され、さらにベルリンブルー染色によってFIPを保持しながら、定着し続けている事が明らかとなった。また、心疾患モデルとして、冠動脈結節術を用いた虚血性心疾患モデル、薬物誘導による肝不全モデルを作製し、血液ガス測定等の新たな評価方法を樹立し、その病態を評価しつつ細胞移植を開始した。 以上より、本研究によって世界で初となるサル類における生体内での細胞動態の追跡に成功した。加えて、その病態がヒトの疾患を忠実に再現し、モデルとして有用な霊長類疾患モデルとして、虚血性心疾患モデル、肝不全モデルを作出し評価及び細胞移植を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、昨年度までに樹立されたSPIOおよびFIPの細胞標識手法を用いて実際に高率に標識したサル骨髄由来間葉系幹細胞の生体への移植を開始した。その後、MRIを用いてサル下腿部腓腹筋および心筋に移植した標識細胞をリアルタイムで可視化し、その細胞の動態を追跡した。その結果、これまでに移植した標識細胞が腓腹筋および心筋の移植部位に留まって検出される事を確認し、さらに病理組織学的にも、免疫染色やベルリンブルー染色等の特殊染色によって、その移植細胞が間葉系幹細胞の形態を保ちつつ、FIPを保持し、移植部位に定着し続けている事が明らかとなった。 さらに虚血性心疾患モデルや肝不全モデルの作出の過程で、霊長類心疾患モデルの新たな評価系としてカニクイザルの動脈血サンプルから血中ガスの測定を行い、その基準値を樹立すると共に、心疾患の病態評価や加齢性変化にも有効である事を明らかにした。現在、この解析手法も含めた血液検査に加え、超音波診断、レントゲン等の検査を行い、実際に細胞移植を行った個体において詳細な病態評価を行っている。 また、これまでに樹立した疾患モデルの中から、ヒトの病態を忠実に反映し、安定して維持可能なモデルである心筋梗塞および肝不全を選択し、実際の細胞移植を行い、樹立した解析手法を用いて移植細胞の動態追跡並びに安全性・有効性の評価にも着手している。糖尿病モデルについては、現在例数を収集しつつ新たな解析法等を加え、より効果的な評価手法を検討している。 従って、これまでの経過は予定していた計画と遜色なく、本年度の進捗状況は概ね順調で達成度はほぼ100%である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に向けての研究の推進方策として、まず実際に移植した細胞の動態を生体内で中長期的に追跡し、その安全性や有効性の評価を行う。特に、主要組織を対象に病理組織学的検索において免疫染色やベルリンブルー等の特殊染色を行い、その動態をin vivo、ex vivo、in vitroから多角的に調査する事としている。 次いで、実際の疾患モデルにおいては有効性の評価と同時に、移植部位や手法の違いによる細胞分布の調査や腫瘍形成能等の安全性評価も行う予定である。さらに疾患モデルに関しては、心不全、肝不全、腎不全、糖尿病等の疾患モデルを対象に、新たな評価手法等を導入することにより、より有効な評価システムとしての充実も図る予定である。 最終的には移植細胞のソースをiPS細胞等に変更することや、各種ターゲット組織に分化誘導させた細胞の移植を試みる事によって、より臨床応用へと近づけた評価系の構築を検討する。なお、本研究課題の一部を担当していた大学院生が引き続き育児休暇を取得しているため、その一部の実験を研究計画に支障の無い範囲で縮小しつつ新たな大学院生が引き継いで実施をしているところであり、研究の進捗は遅らせず、最大限の成果達成を目指す予定である。 結論として、各種霊長類モデルと細胞動態追跡システム等の評価系の組み合わせによって、移植された細胞が生体内でどのように働いているかと言った再生医療のメカニズムの一端を解明する事を目指したい。さらには、将来の再生医療に有益な我が国独自の客観的な有効性・安全性評価システムを樹立する事を最終目標としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで本研究課題の一部を担当していた大学院生が引き続き育児休暇を取得しているため、順延していた一部の実験を別の大学院生へと引き継ぎ、実験のトレーニングから行った。そのため想定していた一部の実験分の物品購入等支出が減り、計上していた金額との隔たりが出来たため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画自体は概ね順調であり、昨年度順延された実験も実験計画に不備の生じない範囲で規模を縮小するなどして実施している。一部の物品費などが余剰となったが、繰り越された経費は次年度の本実験に必要な物品購入等に充てる等適切に使用を行う予定である。
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