研究課題/領域番号 |
15K07791
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水口 智江可 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (90509134)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 幼若ホルモン / カイガラムシ / 性的二型 |
研究実績の概要 |
カイガラムシは、幼虫期の半ばまでは雌雄の形態に差がみられないが、オスは擬蛹と呼ばれる時期を経て有翅成虫へ成長する一方、メスは直接、翅のない成虫になる。このようにカイガラムシは発育において性的二型を示す。一般的に昆虫の変態は脱皮ホルモンと幼若ホルモン (JH) によって制御されることが知られているが、カイガラムシの特殊な発育様式を制御する内分泌機構は不明である。そこで本研究では、カイガラムシの性特異的形質の発達におけるJHの役割を詳細に解明することを目的とした。日本の代表的なカイガラムシ種であるフジコナカイガラムシを実験材料として研究を進め、平成27年度は以下のような研究実績が得られた。 【性決定遺伝子の単離および発現解析】性決定遺伝子doublesex (dsx) のcDNA単離を行い、アイソフォームを複数同定した。また発育に伴う発現プロファイルを定量または半定量のRT-PCRにより調べたところ、性特異的に発現するアイソフォームの存在が確認された。 【JHにより発現制御される転写因子の発現解析】他種昆虫においてJHで発現制御されることが知られている転写因子broadの各アイソフォームについて発現解析を行い、複数のアイソフォームのうち発現がJHに応答するものを特定した。 【遺伝子ノックダウンの実験系確立】二本鎖RNAの注射によりノックダウンを引き起こすRNAi法を試みた。注射に用いる昆虫の発育段階や二本鎖RNA濃度について条件検討を重ねたが、今のところ効果的なノックダウンは確認されていない。 【JHシグナリング因子の網羅的解析】フジコナカイガラムシでJHシグナリングに関わる因子を新たに同定することを目的として、JH処理後の個体および未処理の個体におけるトランスクリプトーム解析に着手した。シーケンシングで得られたデータを現在解析しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、カイガラムシの性特異的形質の発達におけるホルモンの役割を明らかにすることを目的としている。研究成果の各項目に対する達成度は以下の通りである。 【性決定遺伝子の単離および発現解析】平成27年度の研究では、性決定遺伝子dsxのアイソフォームを複数同定し、性特異的に発現するアイソフォームの存在を確認することができた。このように当初の計画通りに研究をすすめることができた。 【JHにより発現制御される転写因子の発現解析】上記のように、他種昆虫においてJHで発現制御されることが報告されている転写因子broadの各アイソフォームについて発現解析を行い、複数のアイソフォームのうちJHに応答するものを特定することができた。このように順調に研究をすすめることができた。 【遺伝子ノックダウンの実験系確立】上記のようにフジコナカイガラムシにおいて、二本鎖RNAの注射によりノックダウンを引き起こすRNAi法を試み、条件検討を重ねている。このように、現在のところ成功には至っていないものの、当初計画していた内容の研究を進めることはできた。 【JHシグナリング因子の網羅的解析】平成27年度の研究ではトランスクリプトーム解析に着手し、JHによって発現誘導される因子を新たに同定することを試みた。フジコナカイガラムシは体サイズが小さいため、トランスクリプトーム解析に必要なRNAサンプルを調製するのに時間を要したが、予定通りにRNAサンプルを調製し、解析に供することができた。 以上のように、当初の研究目的は十分に達成され、研究が順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果および進捗状況を踏まえ、次年度以降は以下のような推進方策を考えている。 【性決定関連因子の単離および発現解析】性決定シグナリングで働くdsx以外の因子について、トランスクリプトームのデータベースから探索を行う。また、これまでにdsxに関して得られた知見を取りまとめて論文投稿を目指す予定である。 【JHにより発現制御される転写因子のプロモーター解析】今までに同定されたホルモンシグナリング遺伝子のうち、オス特異的に発現する転写因子に着目し、ホルモンによる発現制御機構を明らかにするためにプロモーター解析に着手する予定である。 【JHシグナリング因子の網羅的解析】平成27年度の研究で着手したトランスクリプトームのデータ解析を引き続き行っていく。このようにして、新規のJH誘導性因子を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究は、全体的には当初の予定通りに進んだと考えている。しかし「遺伝子ノックダウンの実験系確立」という項目において効果的なノックダウンを確認することができなかったため、複数の遺伝子の機能解析に着手するところまで至っていない。そのため、若干の次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の研究計画で予定している各項目に対して、使用する予定である。特に「JHにより発現制御される転写因子のプロモーター解析」には分子生物学実験用の試薬類が必要になるため、この項目に対して使用する予定である。
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