カイガラムシは発育において顕著な性的二型を示す。一般的に昆虫の変態は脱皮ホルモンと幼若ホルモン (JH) によって制御されることが知られているが、カイガラムシの特殊な発育様式を制御する内分泌機構は不明である。本研究では、カイガラムシの性特異的形質の発達におけるホルモンの役割を詳細に解明することを目的とした。平成30年度の主要な研究成果は以下の通りである。 【脱皮ホルモン濃度変動の解明】前年度に引き続き、フジコナカイガラムシ若虫を多数集めて磨砕し、LC/MS/MSによる脱皮ホルモン検出および定量を試みた。前年度の予備的実験では、脱皮ホルモン類が検出可能であるという予備的結果を得ていたが、本年度の試行では脱皮ホルモン類を検出できなかった。これは夾雑物の影響によるものと考えており、今後は虫体からのサンプル調製方法の検討が必要であると思われる。 【転写因子E93の転写調節機構解明】今までに我々は、他種昆虫で成虫形態形成に関わることが知られる転写因子E93が、カイガラムシではオス特異的に発現することを見出した。本年度はミカンコナカイガラムシを対象として、E93の転写調節領域の配列解読を進めた。約6 kbの領域について配列解読が終了し、この領域内にJH初期応答遺伝子Kr-h1の結合配列を確認できた。また、レポーターアッセイを行うためのコンストラクト作成が終了した。 【性特異的形質の発達におけるシグナリング経路の解明】これまで我々は、フジコナカイガラムシの性特異的形質の発達において、JHシグナリングに関わる複数の転写因子に加えて、性決定遺伝子dsxも関与するという結果を得ている。そこで本年度の研究で、上記E93の転写調節領域内で転写因子結合配列を探索したところ、dsx結合配列の候補配列を同定することができた。よって、JHシグナリングと性決定シグナリングの間のクロストークが改めて示唆された。
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