研究課題
white egg 1系統のカイコ卵にトランスポゾンpiggyBacを用いて遺伝子組換えを行い、UASプロモーターの下流に多角体固定化シグナルであるH1と線維芽細胞増殖因子の一つであるFGF-2(H1/FGF-2)を組み込んだ遺伝子組換えカイコを得た(UAS-F2系統)。このH1/FGF-2を発現するUAS-F2系統のカイコを、フィブロインH鎖プロモーターの制御下でGAL4とUASプロモーターの制御下で多角体タンパク質を発現する系統(polyhedrin系統)と交配させ(図2)、UASプロモーターの制御下でH1/FGF-2と多角体タンパク質を発現する遺伝子組換えカイコ(P-F2系統)を得た。このP-F2系統は、すでにフィブロインH鎖プロモーターの制御下でGAL4を発現するので、得られた遺伝子組換えカイコは結果的にフィブロインH鎖の強力なプロモーターの制御下でH1/FGF-2と多角体タンパク質を大量に発現することになる。この遺伝子組換えカイコの後部絹糸腺組織内では多角体が形成され、さらに後部絹糸腺をシルクガットにした場合、その繊維内に多角体が観察された。そして、得られたシルクガットはNIH/3T3のような線維芽細胞の増殖を誘導することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
すでに、多角体を後部絹糸腺で作る遺伝子組換えカイコ、線維芽細胞増殖因子FGF-2を後部絹糸腺で発現するカイコを作製した。また、、この両遺伝子組換えカイコを交配することで、FGF-2を内包した多角体を後部絹糸腺で作るカイコが得られた。さらに、この後部絹糸腺から作製したシルクガットは、マウス線維芽細胞NIH/3T3の増殖を誘導することを確認した。
今後、FGF-2以外に角化細胞の増殖を誘導するFGF-7や骨形成に働くBMP-2などを発現し、これらを後部絹糸腺組織内で多角体に固定化できる遺伝子組換えカイコを作成している。また、後部絹糸腺組織ではなく、フィブロイン内やもう一つのシルクの成分であるセリシン内に細胞増殖因子を固定化した多角体を産生する遺伝子組換えカイコの作製を進めている。このフィブロインは繊維の状態だけではなく、シート、ゲル、スポンジなどにも加工できることから、傷を早く修復する、毛髪再生を促進する繊維やシートの開発、骨再生のためのゲルやスポンジなどの開発を目指す。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Adv. Mater.
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Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 1, 10
10.1038/srep11051 (2015)