研究課題/領域番号 |
15K07796
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
朝野 維起 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40347266)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 昆虫外骨格 |
研究実績の概要 |
昆虫外骨格の機能として、体を支える骨格としての機能以外に皮膚として恒常性の維持が重要である。しかしながら、外骨格の強度によって単に物理的な防御をするだけではなく、抗菌ペプチドの蓄積やメラニン合成など、生化学的な防御反応の場所として非常に重要だと考えられている。異物に対する昆虫特異的な免疫シグナル系としてプロテアーゼカスケードが注目されている。本年度は、目的プロテアーゼのノックアウトをショウジョウバエ及びカイコガ両方で進めている。ショウジョウバエについては、CRISPR/Cas9システムを利用するための系統を作成しており、それを用いたノックダウン系統が得られると期待している。また、カイコガについてはTALEN法を利用した系統作りに着手した。目的の遺伝子座の塩基配列を決定し、それを元にTALEN用のコンストラクトを作成中である。 また、目的プロテアーゼの活性化をvivo、vitroで人工的に制御できようになるかもしれない実験系を確立中である。目的プロテアーゼは、活性のない前駆体として合成され、必要時に上流のプロテアーゼによる限定加水分解を経て活性化される。その後、外骨格成分の分解へと進む。プロテアーゼが切断される部位にthrombinが認識する切断配列を組み込むことで、感染や傷と関係なくプロテアーゼを活性化するというものである。カイコガ由来のプロテアーゼについては、組み替えタンパク合成・及びthrombinによる活性化と、外骨格成分の特異的分解を確認した。ショウジョウバエのプロテアーゼについても蛋白合成が進行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カイコガ幼虫から得たタンパク質抽出液中に、目的プロテアーゼの活性型を添加することにより、数あるタンパク質の中で、あるバンドが特異的に分解されるが、そのバンドに相当するタンパク質はキチン結合性タンパク質である。生体内において、目的プロテアーゼによるキチン結合性タンパク質分解および、その由来の断片が血球細胞などの活性化に関わることを示すのが、本研究の目的である。Vivoにおいてこのプロテアーゼが本当にこの外骨格成分の分解にはたらいているのかを示すために、ノックアウト個体を作成中であるが、まだ系統の確立に至っていない。特にショウジョウバエに関しては、通常行われている確立された手法を用いているため28年度での作成が可能と考えていたが、まだ系統が得られていないことから、早急に系統作成を進める。 ショウジョウバエにおいてに、ショウジョウバエ幼虫をバクテリア存在下で傷をつけることで、これまでカイコガ同様の外骨格成分(分子量1万数千程度のキチン結合性タンパク質)の分解を観察していたが、これより大きいサイズ(分子量5万程度)のタンパク質の分解も確認できた。この因子の配列を現在確認中であるが、その大きさから既存のキチン結合性タンパク質とは異なる分子ではないかと考えている。外骨格成分がプロテアーゼによって分解されてできた断片の機能をvivoで確認するための系統作成も進行中であるが、まだ発現が確認できる系統が得られておらず、この意味で進捗がやや遅れていると判断した。 プロテアーゼの機能に関して、vivoで人工的に活性化を制御できる系の開発に向けた実験をすすめている。プロテアーゼによって分解される外骨格成分の中には、キチン結合性タンパク質以外の成分からの断片が何らかの機能を持つ可能性について検討するための戦略である。
|
今後の研究の推進方策 |
Vivoにおいて目的プロテアーゼによるキチン結合性タンパク質の分解及び、分解産物の機能解析を進めていく上で、プロテアーゼのノックアウト系統、及び分解産物を強制発現ショウジョウバエ系統の作成は必須であると考えている。そのため、系統作成を早急に進めていくことが本研究の目的達成には肝要である。 本研究は、内在性因子による防御機構の活性化という点で特徴付けられる。内因性因子の、おそらく細胞表面での認識や、認識後の細胞内シグナル系活性化などの情報を得ることが最終的な到達点である。より具体的には、表皮細胞や血球細胞の反応を次世代シーケンサーなどの情報を元に調べたいのだが、外科的な傷をつけることなしに、内因性成分分解物の存在・非存在の影響を観察するためにはショウジョウバエによる強制発現系を得ることが望ましいと考えている。研究の大きな流れ自体には変更はないものの、最終的な目的遂行向けた研究期間については若干の延長が有効かもしれない。そのほか、プロテアーゼの人工的活性化制御については、本研究が対象とする反応系の機能を、キチン結合性タンパク質に限定せずカバーするという点で有効と考えるが、こちらについても系統作成の外注など、効率よく研究を進めていこうと考えている。
|