本研究は、4-アジドフェニルアラニン(AzPhe)等の非天然アミノ酸導入によってシルク由来材料の機能・強度・形態を制御できることを実証すると同時に、手法の限界を探り、実用化ターゲットを決定することを目的とする。本年度は、主に以下4点の成果を得た。 (1)RGDペプチドを効率よくシルクに固定化する方法を検討した。AzPheが導入されたシルクをDBCO-PEG4-DBCOと反応させ、アジド基をDBCO基に変換した。アジド基を有するRGDペプチドをシルク上のDBCO基と反応させることで、RGDペプチドをシルクに固定化することができた。RGDペプチドを固定化したシルクフィルム上への繊維芽細胞の接着性を評価したところ、固定化前のシルクと比較して接着数に有意な変化は見られなかったものの、細胞の形態には差異が観察され、RGDペプチドを固定化すると伸展形態を取りやすくなることが示唆された。 (2)異なる分子量をもつPEG化試薬とAzPhe導入シルクとの反応性を調査し、最適な反応条件を明らかにした。PEGを結合したシルクフィルムへの繊維芽細胞の接着性を評価したところ、PEGの分子量が20kDa以上の場合に顕著な接着細胞数の低下が見られた。 (3)AzPhe導入シルクフィルムに部分的に紫外線を照射してアジド基を破壊した後にPEG化試薬と反応させた。反応後のシルクフィルムに繊維芽細胞を播種したところ、紫外線を照射した領域に細胞が集合する様子が観察された。紫外線を照射しなかった部分ではPEGが結合し、細胞の接着が抑制されたものと考えられる。 (4)AzPheの認識能に優れると考えられた新たなフェニルアラニル-tRNA合成酵素変異体を発現する組換えカイコを作出し、それら組換えカイコが従来よりもAzPheを効率よくシルクに導入できることを明らかにした。
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