研究課題/領域番号 |
15K07809
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
渡辺 昌規 山形大学, 農学部, 准教授 (20320020)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 米由来バイオマス / 高光学純度乳酸 / 同時糖化発酵 / ポリ乳酸 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,非加熱・無殺菌状態の米由来バイオマスから高乳酸生成微生物の分離と乳酸生成の評価を行うとともに,当該バイオマスから高光学純度乳酸生成菌の分離・同定,生理・生化学的特徴,同時糖化発酵(SSF)乳酸発酵液中に含有する糖質バイオマス表層構造,プロテアーゼ等酵素系の挙動解析により,高乳酸生成機構を解明するとともに,SSF乳酸発酵液からの高乳酸生成菌の分離と微生物培養装置を用いた高乳酸生成バイオプロセスを構築すること念頭に置いた。 本年度(平成27年度)は研究計画に基づき,洗米排水から乳酸生成菌の分離,分離菌株の同定,生理・生化学的特徴付け及びバイオマス表層構造解析を実施した。その結果,洗米排水より,合計191株の乳酸生成菌を分離し,併せて米由来バイオマスである洗米排水,米糠をそれぞれ,糖質,糖化酵素(α-glucosidase,α-amylase)供給源および単一原料としたSSFによる乳酸生成試験に供し,高乳酸生成菌のスクリーニングを実施した。 さらに,スクリーニングされた高乳酸生成菌を16S rDNA塩基配列に基づく分子系統解析による微生物同定,生理・生化学的特徴付けを実施した結果,嫌気性陰性桿菌であるLactobacillus rhamnosus、Lactobacillus pracaseiであることが明らかとなった。 また,高乳酸生成菌を用いたSSFによる米由来バイオマスからの乳酸生成時において,培養開始直後からSSF発酵液中のプロテアーゼ活性値の特異的な上昇が認められ,SSF発酵液中プロテアーゼが米由来バイオマスからの高乳酸生成機構の一端を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,研究協力者より提供していただいた,精米工場で稼働している無洗米製造装置より回収される洗米排水を微生物分離源,米由来バイオマス(洗米排水、米糠混合物)を単一原料とした高乳酸生成菌の分離を実施した(詳細は上記参照)。また,耐熱性,耐衝撃性に優れるステレオコンプレックス型ポリ乳酸(SC-PLA)の合成時に必要とされる,ポリ-L-乳酸(PLLA), ポリ-D-乳酸(PDLA)の主原料である,L-乳酸,D-乳酸をそれぞれ当該バイオマスから供給を可能にするにあたり,ラセミ体乳酸ではなく,高光学純度(光学純度95%以上)のL-乳酸,D-乳酸を生成する乳酸生成菌の分離も併せて行い,既に高乳酸生成菌としてスクリーニングされている5菌株において,光学純度97%以上のL-乳酸の生成が認められている。 さらに,生物化学工学的手法による非加熱,無殺菌米由来バイオマスを単一炭素源とした環境調和型SSF乳酸発酵プロセスを構築するにあたり,新規分離菌株(乳酸生成菌)を米由来バイオマスを単一原料とした同時糖化発酵による乳酸生成試験(回分培養)に供し,高乳酸生成菌のスクリーニングを実施した。スクリーニングにより取得した高乳酸生成菌は,微生物同定,生理・生化学的特徴付けを実施するとともに,併せて,高乳酸生成を可能にする環境因子(pH,培養温度及びバイオマス混合比率)の最適化による高乳酸生成プロセスの確立を目指すべく,本検討に必要な微生物培養装置の設置ならびに本装置に付属する外部制御装置との接続,動作確認等を実施した。 これらの成果により,上記区分にに相当する進捗状況であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1として掲げる「米由来バイオマスからの乳酸生成菌の分離と高乳酸生成機構の解明」については,次年度(平成28年度)も引き続き,洗米排水より乳酸菌の分離及び分離菌株からの高乳酸生成菌株のスクリーニングを継続実施するとともに,分離株の基質資化性,栄養要求性を含む生理的性質等,特徴付けを行うとともに,SSFプロセスにおける乳酸生成分離株の産生するプロテアーゼおよび米由来バイオマス由来糖化酵素系の挙動,現有設備である走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX), フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いたSSF発酵液中バイオマス表層の構造解析により高乳酸生成機構の解明を進める。 研究項目2として掲げる「米由来バイオマスを単一原料とした新規SSF乳酸プロセスの構築とその最適化」については,昨年度購入物品である微生物培養装置を用い,環境因子であるpH,培養温度及びバイオマス混合比率の最適化により,高乳酸生成分離株のさらなる高乳酸生成条件を確定する。併せて,基質,生産物の定性・定量分析結果を基に,当該バイオマスからの乳酸生成効率等,生産性評価の際に必要とされる生物化学工学的基礎知見を蓄積する。 研究項目3として掲げる「SSF乳酸発酵液中の微生物叢と乳酸生成能との関係について」は,SSF発酵液中の微生物群構造解析をPCR-DGGEによるバンドパターン解析(場合によっては,T-RFLP解析)を行うことにより,SSFにおける微生物叢と乳酸生成能との関連について考察する。
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