研究実績の概要 |
前年に引き続き、ジャポニカ米栽培種日本晴(Oryza sativa)と野生イネ(Oryza rufipogon W630)の戻し交雑組み換え自殖系統群(BRILs)を利用して、塩ストレスに関連の深い元素:Na, K, Ca, Mgの若い葉や根への蓄積量を、ICP発光分光分析により測定した。BRILsを構成する全159系統の、塩ストレス下における部位別の各元素蓄積量を明らかにした。各組織での元素の蓄積量に関する度数分布をみると、葉身部のNaに関してはややいびつな形になったものの、概して正規分布に近い形で、いずれの元素の蓄積に関しても、複数の遺伝子の関与が示唆された。一方で、問題点も生じた。問題を見越して栽培環境の安定化を試みたものの、晩秋から冬季の低温・低湿度で負の影響を受けたと予想される系統が複数認められた。最も大きな影響を受けた系統を除外した152系統のデータを使用して、不完全ながらQTL解析に進んだ。塩ストレスを考える際に最も重要な葉身のNa蓄積に着目してQTL解析を行ったところ、有力なQTL候補と予想されるピークが、1、3、8番染色体上に検出された。1番染色体に関しては、耐塩性遺伝子であるHKT1;5が座上する領域であることが判明したが、他の2領域に関しては、既知の情報から絞り込める有力な遺伝子はなく、新規のメカニズムを発掘できる可能性がある。
期間全体を通して、一部系統はやむを得ぬ事情で解析が不完全となっているものの、BRILsを利用したスクリーニングによって、塩ストレス下でNa, K, Ca, Mgの各元素が、イネの葉身、葉鞘、根に野生イネ型で分配・蓄積される集団を見出し、関与する遺伝子領域の大まかな絞り込みを行う事ができた。
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