亜酸化窒素(N2O)は強力な温室効果ガスかつオゾン層破壊物質で、農耕地はその主要な発生源である。農耕地におけるN2O発生のメカニズム解析において、関与する細菌の研究が進む一方で、糸状菌も発生に重要な役割を果たすことが指摘されている。しかし、関与する糸状菌、また、その環境中の動態や機能については不明な点が多い。本課題では、農耕地においてN2O発生にかかわる糸状菌の動態を明らかにすることを目的としている。 試験圃場においてジャガイモを栽培した。慣行に従い収穫前に地上部を切除し、圃場に放置した。初年度は圃場からのN2O発生をモニタリングするとともに、採取した土壌や作物残渣のN2Oの発生ポテンシャルを測定し、N2Oが発生している時期及び部位を特定した。その圃場サンプルから脱窒糸状菌の分離し、液体培養時のN2O発生活性とITS領域配列に基づく分類群を明らかにした。 二年目及び三年目は、圃場サンプルについてメタゲノム手法による糸状菌群集構造の解析及びN2O発生活性の高い糸状菌の定量PCRによる存在密度の測定をした。N2O発生活性の高い分離糸状菌と同じITS領域配列は、N2O発生活性の高い環境サンプルで群集構造における存在割合が増大するとともに存在密度も増大することを確認した。 また、分離糸状菌について、脱窒関連遺伝子のPCR増幅を試みた。N2O発生活性が非常に高い糸状菌種については検出される一方、N2O発生活性がないあるいはほとんど見られない糸状菌については検出できず、N2O発生活性の高い糸状菌遺伝子を特異的に増幅できることが明らかになった。二年目の圃場サンプル由来のメタゲノムにおいて乾物重あたりの糸状菌脱窒遺伝子の存在量を定量PCRで測定したところ、N2O発生時の腐敗残渣で高くなっており、圃場のN2O発生現場で確かに糸状菌脱窒遺伝子が増大していることが明らかになった。
|