本研究の目的は、都市固有の景観であり、文化的資産としても価値を持つ水路(特に庭の池と池を結ぶ線水路)、池がある庭園、景観に焦点を当て、現在の水路と池庭の残存状況と特徴、及び高齢化社会における課題を明らかにすることである。長野市松代町の現状だが、松代町内で記録が残る代官町、馬場町、表柴町の池庭は、1985年に102カ所あったが、調査の結果、50カ所にまで減少していた。特に表柴町の減少が激しい。町内に残る水路も、暗渠化されたり、変更されていることが分かった。 他の城下町だが、群馬県甘楽郡甘楽町小幡は泉水路が残されている城下町だが、水路も庭も変化していない。福岡県朝倉市秋月では、町屋に泉水路が形成されているが、1本の水路しか残されておらず、その水路が通る家々では、荒れている庭が増えている。福岡県柳川市は水路網が町中に張り巡らされた城下町だが、池のある庭は20年前の記録と比較すると減少していた。山形県米沢市は城内の屋敷には池庭があり水路が巡っている絵図が残されている。しかし、発掘で水路跡が判明しているだけであり、現存していなかった。 池のある庭の利用だが、鑑賞の場としての役割が大きくなっている。また、維持管理が十分になされていない庭が増加している。 池庭の減少の原因だが、所有者の高齢化が進んでいるとともに、子供や孫が松代町から離れ、空き家になってしまっているケースが多い。その結果、屋敷地が売却されてしまうこともある。 池庭や水路網を残していくための方策だが、地域でそれらを保全する手段を考える必要がある。高齢化などのために維持管理がいきとどかなくなっているが、屋敷地内の水路の清掃や庭の掃除などの手伝いなどは地域の住民と共同で行うことが可能である。そのような活動をもとに、昔からある建物や庭が残っている屋敷を地域に残すことを勧める方法が望まれる。
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