研究課題/領域番号 |
15K07838
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
森山 裕充 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20392673)
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研究分担者 |
川本 進 千葉大学, 真菌医学研究センター, 客員教授 (80125921)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイコウイルス / 弱毒化ウイルス / 生育阻害タンパク質 / 生育促進タンパク質 / 酵母異種発現系 / 植物病原菌 / 酵母異種発現系 |
研究実績の概要 |
フィールドの農作物の罹病斑から、種々の抗生物質を含む選択培地を介して単離された植物病糸状菌中には、しばしばマイコウイルスに感染された菌株が存在する。研究代表者らは、イネいもち病菌とAlternaria alternata菌に持続感染するマイコウイルスのうち、5本の2本鎖RNAをゲノムする新種ウイルスを単離し、国際ウイルス分類委員会(ICTV)にGhabrial教授(米国ケンタッキー大、国際分類委員会 (ICTV )菌類ウイルス部門長)やCoutts教授(英国皇帝大、ICTV同次期部門長)らとChrysovirus属クラスⅡとして定義してきた。 植物病原菌にマイコウイルスが感染すると、宿主菌の病原性を弱めたり(弱毒化)、逆に強めたり(強毒化)する性質が付与されることがある。本研究において、研究代表者らはイネいもち病菌マイコウイルス(MoCV1-A)とAlternaria alternata菌マイコウイルス(AaCV1)由来で遺伝子配列情報だけでは機能が未知であるタンパク質の生物的活性を、パン酵母異種発現系を利用することにより、顕在化し得る評価系を改良し確立できた。 MoCV1-A由来のORF4タンパク質(811aa)とAaCV1由来のORF2タンパク質(776aa)は、同一性が18.7%で類似性が62.9%はであり、共に酵母細胞内で発現させると生育阻害を生じさせることが明らかとなった。RNA-Seq解析の結果、MoCV1-A ORF4発現により生育阻害が見られた酵母細胞では、ストレス応答遺伝子の発現量が5~20分の1ほど減少することや、逆にリボソームタンパク質やメチオニン合成遺伝子、エルゴステロール系耐性(カタラーゼ、小サイズの分子シャペロン)に関与する遺伝子群の発現が低下していることなどが分かった。また、生育阻害活性を示すアミノ酸配列を、251アミノ酸にまで絞り込む事も出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
広い抗菌活性を有するMoCV1-A ORF4タンパク質が細胞に及ぼす作用機作の解明については、酵母細胞中でORF4タンパク質を発現させ生育不良を生じさせた時に、発現量が変化する遺伝子群をRNA-Seqで解析した結果、過酸化物代謝や酸化還元プロセスなどのストレス応答に関与するSOD(Suppressor of Glycerol Defect)や、HSP12、HSP30などのストレス応答遺伝子、QCRなど電子伝達系、FMP43など細胞壁形成に関与するストレス応答遺伝子の発現量がそれぞれ低下していた。 MoCV1-A ORF4タンパク質の生育阻害活性領域の特定化については、MoCV1-A ORF4タンパク質(820アミノ酸残基)は抗菌活性有するが、既存の抗菌タンパク質とは全く類似性を持たないが、Chrysovirus属クラスターⅡに属するマイコウイルスのタンパク質とはある程度の類似性を示す。このアミノ酸配列保存性を指標として、250アミノ酸残基を選定して、パン酵母細胞内で異種発現させた結果、全長ORF4タンパク質を発現させた時と同様な生育阻害活性を有することが明らかにされた。 MoCV1-A ORF4 SUaタンパク質の生産方法と精製方法の確立については、大腸菌E.coli (BL21Star) にpCildI ベクターにMoCV1-A SUaタンパク質断片を発現させ、その産生量について検討した結果、LBアンピシリン培地で培養した大腸菌で濃度OD600=1.0の培養液5ml中、125μgのSUaタンパク質が産生されることが判明した。このうち95%以上のSUaタンパク質は、不溶性画分として産生され、本産生系おける可溶性画分として得られたSUaタンパク質は極少量で6.25μgであった。
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今後の研究の推進方策 |
地球上に150万種以上存在する菌類に感染するマイコウイルスは多様性に富んでおり、未知なものが多く、ゲノム核酸やタンパク質の構造など分子生物学分野における基礎的な発見の宝庫と云える。研究代表者らはマイコウイルス感染が植物病原菌の病原性を弱めたり(弱毒化)、逆に強めたり(強毒化)する性質を示す事を見出してきた。パン酵母に生育阻害を付与するタンパク質を選抜する評価系を確立し、その応用展開としてマイコウイルスタンパク質をヒト病原性酵母クリプトコックスに作用させると、やはり生育阻害や莢膜多糖形成阻害効果があった。一方で類似配列を有する他のマイコウイルスタンパク質は、予想に反して、酵母細胞に生育促進能を付与することが判明し、同時に殺菌剤(抗がん剤)に対する薬剤耐性能を酵母細胞に獲得させ、またカナバニンに対する耐性菌の出現率を上昇させる現象(約10倍以上)も見つかってきた。以上の事より、マイコウイルス感染は宿主体に対して、明らかに負荷を与えているようだが、薬剤処理などのストレス条件下においては、寧ろ、生存に有利な状態に宿主菌を変化させているとも考えられる。酵母細胞の生育促進現象、特に長寿化遺伝子などのホモログはヒトにも存在するので、得られた研究成果は、生物制御科学や微生物発酵工学分野への応用だけでなく、将来的には医薬医療分野への展開の可能性もあり、是非ともマイコウイルスの知見を広角な学問分野に拡張する事に挑みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究成果を公表すべく学会発表への参加として、国内であれば日本農薬学会(5月25日~27日開催)や、国際学会としては、アメリカウイルス学会(7月14日~18日開催 メリーランド大学)があり、博士課程学生2名と修士1年学生1名が発表予定であり、その全てをカバーする訳ではないが、旅費の補助としての使用を予定する。アメリカウイルス学会では、米国のマイコウイルス研究者(Harvard Medical school, Max Nibert教授)や、NIH(米国科学アカデミー会員 Reed B. Wickner博士)訪問して、大学院生達の見識拡大にも努め、共著論文作成の相談を行う。 また、新たな研究材料と成り得るマイコウイルスが多数発見されたことにより、研究を継続して進めて行く上で、新たにウサギ抗血清を作製する必要が有るが、抗血清作製に必要な抗原作製実験に必要となる期間の確保には、平成30年度5月までを要したため、使用期間の延期を申請した。尚、抗原作製作業は終了しており、現在は抗血清作製を依頼中であり、その必要経費の支払いは7月上旬を予定している。
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