研究課題
Ca2+/CaM-dependent protein kinase I (CaMKI) はCa2+シグナリングで重要な役割を果たすプロテインキナーゼであり、活性化ループ内のThr残基が上流のCaMKキナーゼ (CaMKK) によってリン酸化されることにより活性化する.CaMKIのC末領域を欠損させた変異体 CaMKIα(1-294) は恒常的活性型フォームとして知られているが、大腸菌発現系で取得したCaMKIα(1-294)の活性は、CaMKKによるリン酸化を受け活性化したCaMKIαの活性には遥かに及ばない.それに対して、CaMKIδのC末欠損変異体 CaMKIδ(1-299) を大腸菌で発現させた場合、CaMKKによる活性化を受けずとも、恒常的に高い活性を示すことを明らかにしている.そこで本研究では、CaMKIδ(1-299)の活性化メカニズムを明らかにするためにCaMKIα(1-294)と比較解析を行った.まず、CaMKIδ(1-299)がリン酸化によって活性化している可能性を考え、大腸菌で発現・精製したCaMKIα(1-294)とCaMKIδ(1-299)に対してλphosphataseによる脱リン酸化処理を行ったところ、SDS-PAGEにおけるCaMKIα(1-294)のバンドに変化は見られなかったが、CaMKIδ(1-299)のバンドは顕著にシフトダウンした.また、λphosphataseで脱リン酸化したCaMKIδ(1-299)を精製し、脱リン酸化していないものと活性を比較したところ、脱リン酸化処理したものでは活性が著しく低下することが明らかになった.このことから、CaMKIδ(1-299)は大腸菌内でCaMKKによるリン酸化部位を自己リン酸化している可能性が考えられたが、リン酸化部位特異的抗体を用いて解析したところ、CaMKKによるリン酸化部位はリン酸化されていないことが示された.以上の結果より、CaMKIα(1-294)は大腸菌内でのリン酸化が起こらないため活性が低いが、CaMKIδ(1-299)はCaMKKによるリン酸化部位以外の残基がリン酸化されることにより高活性型となっていることが示唆された.
1: 当初の計画以上に進展している
28年度以降の研究計画では、CaMKIδの内在性基質の探索を行うこととなっていた。計画調書の通りに実験を進めた結果、骨形成に関与するとされている転写調節因子のうち2つの分子をCaMKIδがリン酸化することを突き止めた。29年度は、これらの転写調節因子のリン酸化部位の同定と、リン酸化の意義について調べる。一方、27年度に引き続きCaMKIδの活性調節機構の解明も行った。その過程で、研究実績の概要に示した成果が得られ、一部はBiochem. Biophys. Res. Commun.誌に発表するとともに、CaMKIδ(1-299)を“リン酸化試薬”として特許出願中である。このような状況であるため、当初の計画以上に進展していると考えられる。
基本的には今までの体制を維持し計画を進めるが、CaMKIδの活性調節機構に関しては、質量分析による自己リン酸化部位の同定と結晶構造解析を最優先とし、産総研の絹見朋也博士、千賀由佳子博士に協力を仰ぐことになっている。CaMKIδの内在性基質の探索については、上記の通り、基質候補である2種類の転写調節因子のリン酸化部位の同定と、リン酸化の意義について調べる。
申請時には蛍光マイクロプレートリーダーを購入する予定で予算を計上していたが、減額されたため、予定通り購入すると消耗費予算を圧迫して研究の遂行に支障を来すと判断し、27年度予算の一部を消耗品費として28年度に繰り越していた。その分、28年度の消耗品予算に余裕が生まれたため、29年度に繰り越すこととした。
29年度配分予算と合わせて、主に消耗品費として有効利用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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http://www.ag.kagawa-u.ac.jp/sueyoshi/index.html