多くの植物が行う「C3型光合成」では、Rubiscoのオキシゲネーション反応により、いったん固定した二酸化炭素を放出してしまうことが知られている。この現象は「光呼吸」として知られており、光合成効率を著しく低下させていると考えられている。本研究の目的は、重炭酸イオン輸送体を葉緑体内包膜に導入することで葉緑体内に二酸化炭素を濃縮し、光呼吸を抑えて光合成能を向上させることである。 H29年度は、野生型の重炭酸イオン輸送体BicA及びSbtAを発現するシロイヌナズナのスクリーニングと解析を行った。H28年度にキメラ重炭酸イオン輸送体とTEVプロテアーゼを形質転換したシロイヌナズナをスクリーニングし、形質転換株をライン化した。その結果、導入したTEVプロテアーゼによりキメラ重炭酸イオン輸送体が確かに切断され、野生型の重炭酸イオンが生じていることが判明した。さらに、発現量の高い植物から葉緑体を単離して、TEVプロテアーゼで切りだされたBicA及びSbtAの葉緑体内局在を調べたところ、輸送シグナル切断後もBicA及びSbtAは葉緑体内包膜に局在していることが明らかになった。一部のコンストラクトでは切断後の重炭酸イオン輸送体が検出できなかったことから、現在、その原因を調査中である。また、形質転換体から単離した葉緑体の重炭酸イオン輸送活性を測定するため、シリコンオイル法を用いて測定条件の検討を行った。その結果、粘度の異なるシリコンオイルを混合して葉緑体を回収可能な条件を見出した。今後は、本研究成果をさらに発展させるために、単離葉緑体の重炭酸イオン輸送活性の測定を行う予定である。
|