研究課題
本研究では植物の高温耐性メカニズムの解明と応用研究を目的に、1,モデル植物シロイヌナズナの近縁種の高温耐性植物、Thellungiella salsugineaの遺伝子資源を用いた高温耐性付与遺伝子の探索と耐性作物の作出、2,シロイヌナズナのエコタイプ間に存在する高温耐性遺伝子座の特定を行っている。平成27年度については、1については、極矮性トマト(Micro-Tom)の野生型および高温耐性付与遺伝子として同定したTsHsfA1d導入植物のRNAseq解析を行った。その結果、今後の研究に有用なトマトにおける高温誘導性遺伝子マーカーを多数同定した。一方、TsHsfA1d導入植物については、導入遺伝子自身の発現量が不十分なためか、下流遺伝子として予想されたHSP遺伝子群の発現が低く、導入遺伝子の効果が十分に得られなかった。2については、Ei-2(高温感受性accession) x Da(1)-12(高温耐性accession)のRecombinant Inbred Lines (RILs)を用いてQTL解析を行った。その結果、第一染色体上にのみ高温耐性と相関を示すQTLを見出した。RILを用いたマッピングにより、高温耐性QTLを1200kbp内に絞り込むことに成功した。さらに原因遺伝子を絞り込むため、Ei-2 x Da(1)-12にDa(1)-12を3回掛け戻ししたNear Isogenic Lines (NILs)を作出した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究計画の主要項目として、1、T. salsuginea遺伝子資源を用いた耐性付与遺伝子の探索と耐性作物の作出については、野生型トマトとTsHsfA1d導入植物のRNAseq解析、2、シロイヌナズナaccessions間に見られる高温耐性バリエーションのQTL解析については、Ei-2 x Da(1)-12のRILsを用いたQTL解析としていたが、いずれも実施することが出来たため。ただし、1のRNAseq解析の結果、導入遺伝子TsHsfA1dの発現量が不十分のため、下流遺伝子の高発現が確認出来ない問題を抱えていることが明らかになった。そこで高発現を誘導するため、異なる翻訳エンハンサーの下流に遺伝子を繋ぎ、Micro-Tomへの再形質転換を行った。さらにT. salsuginea由来の転写因子がトマトの下流遺伝子の発現を誘導することが出来ない可能性を考慮し、RNAseqの結果より得られたトマト内在性のHsfA1ホモログ2遺伝子についてもMicro-Tomへの形質転換を行った。
1、T. salsuginea遺伝子資源を用いた耐性付与遺伝子の探索と耐性作物の作出新たに形質転換を行ったTsHsfA1d植物、およびトマト内在性のHsfA1ホモログ遺伝子導入植物について、導入遺伝子の発現量を確認し、高発現が確認された系統について、下流遺伝子と予想されるHSP遺伝子群の発現量を調べる。HSP遺伝子群の高発現が確認出来た系統については、RNAseqを行うことで、トマトにおけるHsfA1制御遺伝子群を明らかにする。また、得られた形質転換体を用いて高温耐性を評価する。2、シロイヌナズナaccessions間に見られる高温耐性バリエーションのQTL解析Ei-2にDa(1)-12を掛け戻す、あるいはDa(1)-12にEi-2を掛け戻すことにより作成したNILsのF2世代を用い、高温耐性評価とgenotypingにより高温耐性遺伝子座の絞り込みを行う。原因遺伝子の特定については、①絞り込んだ領域のゲノムシークエンス、②高温感受性NILにDa(1)-12(耐性)由来の遺伝子を相補、あるいは耐性NILにEi-2(感受性)由来の遺伝子を相補する試験により決定する。また先行研究において、寒天培地を用いた無菌閉鎖系での高温耐性評価と、土植え開放系での高温耐性評価では、同一accessionでも耐性が大きく異なる場合が多々認められた。土植えでは、閉鎖系と異なり十分に蒸散出来ること、給水は行うものの、乾燥などのストレスがかかるなど、耐性に必要なメカニズムが異なるためと考えられる。そこで土植え植物を用いた耐性評価系を確立し、Genome-wide association study (GWAS)に必要な多型情報を有する、シロイヌナズナ170 accessionsセットを高温耐性評価する。
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