最終年度である平成29年度は,平成28年度に獲得した不斉配位子複合型ニトロキシルラジカルを用いて,本ニトロキシルラジカルと銅を触媒として用いるラセミ第2級アルコールの酸化的速度論的光学分割の基質適用性について検討を行った. 始めに本触媒系の特長を実証すべく,官能基共存性について検討を行った.具体的には,trans-2-フェニル-1-シクロヘキサノールのフェニル基のパラ位に種々の官能基を導入した基質の検討を行った.その結果,電子豊富なメトキシ基を含む芳香環や,アニリン,スルフィド等を含む基質においても,良好なエナンチオ選択性でアルコール酸化反応が進行することを確認した.この結果から,本研究で見出したラセミ第2級アルコールの酸化的速度論的光学分割の条件が,他に類を見ない化学選択性を有していることを実証した. 次に,trans-2-フェニル-1-シクロヘキサノールから骨格を変化させた基質について検討行った.相対立体配置をcisとした基質では,エナンチオ選択性は殆ど確認されなかった.また,シクロヘキサノール2位の置換基を,アルキル基,エーテル基,エステル基に変更した基質の検討を行った.これらを用いた場合にはフェニル基を有する基質と比較すると少し選択性が落ちるものの,中程度から高いエナンチオ選択性でアルコール酸化反応が進行することを確認した. 鎖状アルコールを用いた場合においては,アルコールのβ位に嵩高い置換基を有する基質が,中程度のエナンチオ選択性で分割されることを確認した.
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