平成29年度は、キラルルイス酸を利用したアルキン-カルボニル化合物のエナンチオ選択的アンチWacker型環化反応について検討を行った。キラルルイス酸の利用に先立ち、有機金属試薬とルイス酸の組み合わせについて検討を行った。アリールボロン酸またはそのエステルを有機金属試薬として用いた場合には、THF溶媒中、酸素親和性の高いケイ素やチタン原子を含むルイス酸または、リン酸などのブレンステッド酸を化学量論量添加しても、反応は進行しなかった。アリールボロン酸を求核剤として用いる際には、通常メタノール溶媒を必要とすることから、THF溶媒中では、ルイス酸によるカルボニル基の活性化は可能であるが、生じる対アニオンの塩基性が乏しく、有機ホウ素試薬のトランスメタル化が進行しないためと考えた。そこで、塩基性が乏しい対アニオンによってトランスメタル化が可能なアルキル亜鉛試薬を有機金属試薬として用いることにした。その結果、クロロシランやボロン酸トリエステル、チタン酸テトラエステルなどのルイス酸を化学量論量添加することで、アンチWacker型環化反応が進行することがわかった。触媒量のルイス酸では十分な転化率が得られなかったが、光学活性ジオールに由来するボロン酸エステルおよびチタン酸エステルを化学量論量用いてエナンチオ選択的アンチWacker型環化反応を試みた。残念ながら、不斉収率は12% ee程度にとどまったが、各有機金属試薬に対応する環化条件を明らかにすることができた。 また、パラジウム触媒および林・Jorgensen触媒を用いたアルキン-エナール基質と有機ホウ素試薬のエナンチオ選択的付加・環化反応について検討を行った。テザーが3元素の基質については、トルエン溶媒中、上述の2つの触媒に加え、フェノールを添加することで、良好な化学収率および不斉収率で付加・環化反応が進行することを見出した。
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