研究課題/領域番号 |
15K07853
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
南部 寿則 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (80399956)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 複素環化合物 / スピロシクロプロパン / 環化反応 / 多置換芳香族化合物 / 天然物 / 合成 / ベンゾフラン / インドール |
研究実績の概要 |
生物活性天然物のみならず医薬品や農薬などに幅広く見られる複素環化合物の合成法の開発は,有機合成化学における最も重要な研究課題の一つである。本研究では,スピロシクロプロパンの開裂に続く環形成反応を用いるインドールおよびベンゾフラン骨格含有多置換複素環天然物の合成研究に取り組み,本年度は以下の成果を得た。 1. スピロシクロプロパンは反応性に富むため,インドール合成における鍵中間体として利用できることを最近見出しているが,その効率的な合成法がこれまでになかったことから,新規合成法の開発を目指した。種々検討した結果,塩基性条件下,1,3-シクロヘキサンジオンにスルホニウム塩を反応させることで,目的のスピロシクロプロパンが高収率で得られることを見出した[Tetrahedron Lett. 56, 4312 (2015)]。 2. シクロプロパン部にアリール基が置換したスピロシクロプロパンに酸触媒を反応させると,速やかにシクロプロパンの開裂に続き環化反応が進行し,目的のテトラヒドロベンゾフラン-4-オンが高収率で得られることを見出した。また,本反応を鍵工程とする生物活性ベンゾフラン天然物cuspidan Bの初の全合成を達成した[Synthesis, in press]。 3. スピロシクロプロパンのアミンによる開裂に続く環形成反応を鍵工程として用い,アスピドスペルマアルカロイドであるアスピドスペルミジンの形式合成を達成した。すなわち,スルホニウム塩を用いるスピロシクロプロパン合成,続いてアミンによる環化反応,さらに分子内のアルキル化に続く分子間でのエチル基導入反応を行った。最後に,エナミノンの立体選択的還元により,アスピドスペルミジンの合成中間体を得ることに成功した。最終工程であるエナミノンの水素添加による還元の収率が良くないものの,非常に短工程での形式合成が達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに,平成27年度中に酸触媒を用いたスピロシクロプロパンの開裂に続く環形成反応によるベンゾフラン骨格の効率的構築法を開発することができた。さらに,本反応を鍵工程とする生物活性ベンゾフラン天然物cuspidan Bの初の全合成を達成した。 また,もう一つの研究課題であるインドールアルカロイド合成については,現在のところ,最終工程であるエナミノンの立体選択的還元が低収率であるものの,既にアスピドスペルミジン合成の鍵中間体までの合成が達成できているため,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは5員環構築(インドールおよびベンゾフラン骨格)を検討したので,平成28年度は6員環構築に取り組む。具体的には,スピロシクロプロパンにスルホニウムイリドを反応させることでクロマン骨格が構築できると考えている。 また,スピロシクロプロパンのアミンによる開裂に続く環形成反応を鍵工程とするアスピドスペルミジンの形式合成を達成しているが,ラセミ体の合成であるため,鍵中間体の不斉合成を検討する。本合成ルートでは,スルホニウム塩を用いるスピロシクロプロパン合成,アミンによる環化反応,分子内のアルキル化に続く分子間でのエチル基導入反応を行い,最後にエナミノンの立体選択的還元によりアスピドスペルミジンの鍵中間体を得ている。分子間のエチル化の工程で第四級不斉炭素を構築しているため,この段階でのキラルな触媒を用いた不斉アルキル化反応を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通り,平成27年度中にアスピドスペルミジンの形式合成が達成できたが,最後のエナミノンの立体選択的還元の収率に問題を残している。その収率の改善を本年度中に達成できなかったため,平成28年度の始めに本還元反応を検討する必要が生じたことから,少額ではあるが助成金を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでは,様々な不均一系触媒を用いて接触水素化を検討してきたが,今後は均一系触媒を用いてみる。繰り越した助成金で様々な触媒を購入し,検討する計画である。
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