研究実績の概要 |
生物活性天然物のみならず医薬品や農薬などに幅広く見られる複素環化合物の合成法の開発は,有機合成化学における最も重要な研究課題の一つである。本研究では,スピロシクロプロパンのアミンまたは酸触媒による開裂に続く環化反応を用いるインドールおよびベンゾフラン骨格を含む多置換複素環天然物の合成研究に取り組み,以下の成果を得た。 1 (最終年度):スピロシクロプロパンのアミンによる開裂に続く環化反応により得られたテトラヒドロインドール-4-オンは,様々な反応点をもつことから,様々な置換基をもつインドール誘導体の位置選択的合成の中間体となりうる。4位への置換基導入は,ピロール誘導体へと部分酸化したものに,アルキルリチウムを用いてアルキル化することで達成した。5位および7位への置換基導入は,塩基を使い分けることにより位置選択的にアルキル化することで達成した。6位に置換基をもつインドール誘導体は,原料であるスピロシクロプロパンに予め置換基を組み込むことにより合成できた。また,これらの位置選択的置換基導入法を組み合わせることにより,インドール4~7位に置換基をもつ多置換インドールの合成に成功した。この多置換インドール合成法は,様々なインドールアルカロイドの合成に応用できる。 2 (研究期間全体):出発原料であるスピロシクロプロパンは,これまでに合成例はあったものの副生成物を伴うため効率の良い方法ではなかった。私は,1,3-シクロヘキサンジオンとスルホニウム塩を用いる新規スピロシクロプロパン合成法を開発することに成功した。 3 (研究期間全体):スピロシクロプロパンに触媒量の酸を加えると,シクロプロパンの開裂に続く環化反応が室温下速やかに進行し,テトラヒドロベンゾフラノンが収率良く得られることを見出した。さらに,本反応を鍵工程とするベンゾフラン天然物クスピダンBの全合成を達成した。
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