研究課題/領域番号 |
15K07863
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
門口 泰也 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (40433205)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 不均一系 / クロスカップリング / 芳香族塩素 / パラジウム / 機能性物質 / 触媒・化学プロセス / 有機化学 / 合成化学 |
研究実績の概要 |
反応性が低い芳香族塩素化合物の不均一系鈴木-宮浦反応の開発を目指し、配位子としての作用が期待されるジメチルアミノ基を分子内にもつ三菱化学製ポリスチレン系陰イオン交換樹脂DIAION WA30(以下WA30)を担体とするパラジウム触媒の調製法を検討した。その結果、室温でWA30を酢酸パラジウムの酢酸エチル溶液に浸し、パラジウムイオンをWA30に吸着した後に、水中室温でヒドラジン処理することで、黒色の5% Pd/WA30を調製した。また、酢酸エチルの代わりに還元作用をもつメタノールを溶媒とすることで、「吸着工程」と「還元工程」をワンポットに簡略化できるものと期待したが、吸着前にパラジウムが一部還元されたため、この方法は断念した。 5% Pd/WA30の走査透過電子顕微鏡(STEM)像からパラジウム粒子径は約3~20 nmであり、X線光電子分光(XPS)から2価パラジウムと0価パラジウムが混合していることが明らかとなった。 4-クロロアセトフェノンとフェニルボロン酸の反応について、塩基、溶媒、反応温度を詳細に調べた結果、5% Pd/WA30を触媒(5 mol%)として2当量の炭酸セシウムとともにN,N-ジメチルアセタミド(DMA)中80℃で6時間撹拌することで対応する4-アセチルビフェニルが定量的に得られた。この反応は芳香族塩素化合物の置換基の電子的性質に影響せず効率的に進行した。すなわち、アセチル基以外のエトキシカルボニル基やニトロ基などの電子求引性基あるいはメトキシ基やメチル基などの電子供与性基を芳香環にもつクロロベンゼン誘導体を本法に適用することができる。また、5% Pd/WA30は、フェニルボロン酸に加えて、様々な官能基をもつアリールボロン酸と芳香族塩素化合物とのカップリングを効果的に触媒することを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りに、第三級アミノ基をもつイオン交換樹脂担持型パラジウム触媒(5% Pd/WA30)の調製方法を確立し、機器分析により触媒中のパラジウム種の酸化数と粒子径を明確にした。また、本触媒を用いることで、芳香族塩素化合物の鈴木-宮浦反応が効率良く進行することが明らかとなり、基質一般性を示すことができ、本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に確立した反応条件に基づいて、ヘテロ芳香族塩素化合物を基質として、アリールボロン酸との反応を検討する。これまでに、4-クロロピリジンのフェニル化反応は効率良く進行することが分かっており、基質適用性の拡大を目指す。続いて、触媒の回収・再利用を検討する。触媒の回収・再利用は環境負荷低減とコスト削減の観点から実用的適用に直結するため、重要である。さらに、5% Pd/WA30から反応液中へのパラジウム溶出の有無を確認する。反応後に触媒をろ去することで得られるろ液中のパラジウム濃度を原子吸光測定あるいは誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)により定量する。パラジウムが検出されない場合には、生成物からのパラジウム残渣の除去操作が不要であるため、本クロスカップリング反応の、医薬品や機能性物質合成の最終あるいはそれに近い段階での適用に期待が持たれる。また、反応過程で溶出したパラジウムがWA30に再吸着されることで、パラジウムがろ液中に検出されない場合もあるものと考えられる。したがって、反応が25%前後進行する時間で反応液を熱時ろ過し触媒を除去した後、ろ液を再度加熱することで反応が進行するか否かを確認する。この検討により触媒の活性種を明確にすることができる。 我々はすでに、芳香族塩素化合物の脱塩素化反応が第三級アミンの添加により著しく促進されることを明らかとするとともに、第三級アミンは一電子供与体として作用するものと考察している。本カップリング反応でも担体の第三級アミノ基が一電子供与体として作用している可能性もあり一電子捕捉剤やラジカル捕捉剤の添加効果を確認する。さらに、第三級アミノ基をもたないポリマー担持型触媒Pd/HP20に第三級アミンを添加した場合の反応の進行を調べることで、反応機構および触媒担体の第三級アミノ基の効果を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請書平成27年度予算として、「フロー反応装置H-Cube (ThalesNano Technology)」購入のために3,300,000千円を計上したが、同年度交付金額(物品費2,500,000千円)がそれに満たず購入できなかった。この装置は本研究の遂行に必須であるので、他のプロジェクトで共同研究を実施している数々の会社や施設に問い合わせた結果、無償で貸与していただけることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度分の残額を平成28年度に移行し、試薬代等の消耗品や反応に使用する機器(柴田化学・有機合成装置ケミストプラザ等)の修繕に充てる。特に5種類の反応を同時に進行させることが可能な有機合成装置ケミストプラザは、本研究における反応条件から基質適用性の検討までフル稼働している。研究室では現在7台を保有しているが、購入後5年以上を経ており1台は故障している。研究遂行に支障がでており修繕費に使用する。フロー反応装置H-Cubeは貸与を受けることが可能になったが、触媒カートリッジはハンガリーのH-Cube製造販売会社(ThalesNano Nanotechnology社)から購入するため、購入費と運搬費にも充てる。
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