研究課題/領域番号 |
15K07866
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
廣瀬 友靖 北里大学, 感染制御科学府, 准教授 (00370156)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 全合成 / アクチノアロライド / トリパノソーマ / 新規天然物 |
研究実績の概要 |
これまで北里生命科学研究所では顧みられない熱帯病に対する活性天然物の探索を積極的に行ってきた。新規生物活性天然物アクチノアロライド類はフィジコケミカルスクリーニングを用いることで放線菌Actinoallomurus fulvus MK10-036株培養液中より単離された12及び14員環マクロライドである。詳細な活性評価の結果、アクチノアロライド Aはin vitroにおいて既存薬であるPentamidineに匹敵する非常に強い抗トリパノソーマ活性を示した。特に注目すべき点としてアクチノアロライドAはヒト胎児肺細胞(MRC-5)に対する細胞毒性は他の類縁体と比較して、十分に低い値であった。以上の結果から、アクチノアロライド類は安全性の高い抗トリパノソーマ薬創製に向けたリード化合物として期待が持てる。そこで新たな抗トリパノソーマ薬創製を目標に、多彩な類縁体合成を可能とする不斉全合成経路の確立に着手した。 平成27年度の成果では、アクチノアロライド類の未決定であった絶対立体構造を決定し、更にアクチノアロライドの全合成研究を開始した。その結果、アクチノアロライドの全炭素骨格を有する鎖状中間体の合成を達成した。 平成28年度では引き続き、全合成ルート確立の検討をおこなった。特に鍵反応の一つである大環状骨格の形成を種々検討した結果、分子内光延反応を利用することでその構築に成功し、全合成におけて重要な中間体までの合成を達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクチノアロライドの構造的特徴としては、12員環マクロラクトン内に五員環ヘミアセタールを有すること、及び側鎖に3連続類似不斉中心を有していることが挙げられる。複雑な構造を有するアクチノアロライドを合成するにあたりこの2つの構造的特徴に即した合成戦略を立案した。1つ目の構造的特徴である五員環ヘミアセタールは、前駆体となるβ-ケトエステル が種々の反応条件に対して不安定である事が予想されるため、β-ケトエステル骨格は合成終盤において構築することとし、その前駆体を合成終盤まで安定な構造として存在させておく必要があると考えた。そこで五員環ヘミアセタールの前駆体として含ベンゼン大環状エーテル体を設定し、ベンゼン部分の解裂により五員環ヘミアセタールを導くこととした。即ち、ベンゼン部分のBirch還元と生じたジエンを選択的酸化開裂を行うことにより導日けると考えた。また、環状エーテル体はフェノール性アルコールの光延マクロエーテル化により得られると考えた。 前年度までの合成研究によって得られたアクチノアロライドの全炭素骨格を備えた中間体を用いて鍵反応の一つである光延マクロエーテル化について検討を行った。その結果、DIAD(Diisopropyl azodicarboxylate)、PPh3を用いた分子内光延反応は進行しなかったが、その後、最適な保護基の選択と塩基性の高いTMAD及びPPh3を過剰用いた反応条件を見出し、目的とする大環状エーテル化合物を収率62%で得られるよう改善できた。このため当初の計画に従い、おおむね順調に進展していると判断し、区分では(2)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、アクチノアロライド全合成の重要中間体となる大環状エーテル体の合成まで達成できた。今後はその中間体から、アクチノアロライドの不安定な構造部分である五員環ヘミアセタールを導びき、その不斉全合成の達成を検討する。一方でアクチノアロライドの構造活性相関の解明を目指し、アクチノアロライドの大環状部分から伸長している側鎖骨格部分における活性評価を行う。その側鎖骨格部分を構築するに当たり、11 位及び21位水酸基はそれぞれラクトン化並びに酸化工程に伏す必要がある。側鎖骨格の設計に関して、天然由来アクチノアロライドA(12員環)はアクチノアロライドE(14員環)にトランスラクトン化することを既に明らかにしているため、その11位水酸基にメチル基を導入し、副反応を抑制することとする。そして、合成した側鎖部分に関してはトリパノソーマ活性評価へ提出し、その活性の有無を確認する。更に、活性情報を参考に全合成ルートを利用して様々な誘導体を創製し、その構造活性相関の解明と、in vivoで活性を有する化合物を創製する予定である。
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