研究課題
近年、薬剤耐性菌や多剤耐性菌は社会問題となっており、耐性菌に対して有効な薬剤や新たな創薬ターゲットの発見が求められている。このような背景のもと、本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、結核症および肺 Mycobacterium avium complex 症(肺 MAC 症)に焦点を当て、その生育の阻害剤、既存の抗細菌薬の増強剤や病原因子の阻害剤を微生物資源より開拓することを目的に進めている。また、興味深い抗感染症活性を示す化合物については、生化学的・分子遺伝学的な手法を駆使して、活性発現に重要な責任分子(標的分子)を同定するなどケミカルバイオロジー研究への応用を目指している。1MRSA に対するイミペネムの増強剤 stemphone 類について、S. aureus FDA209P 由来の FemA タンパク質を材料に、種々の評価(結合親和性、酵素阻害活性や FemA 阻害剤との競合活性)から、stemphone C が既存の阻害剤とは異なる結合様式を有する新しいクラスの FemA 阻害剤であることを見出した。2さまざまな環境下より分離された微生物の培養抽出液(約数万サンプル)を探索源に、結核菌 M. bovisのほか、非結核性抗酸菌 M .avium や M. intracellulare に対して活性を示すサンプルを検索した。さらに抗菌選択性やLC-MS/MSによるネットワーク解析により絞り込みを行うことで、新規物質の生産が期待される数種の候補株(海洋に由来する放線菌や真菌)を見出した。
2: おおむね順調に進展している
探索研究および作用機序の解析研究ともに、当該年度に計画していた内容をおおむね実施できたと考えている。とくに、stemphone 類の作用機序の解析研究については、stemphone 類の生物活性に関連性の高いターゲットとして FemA を同定するなど研究を大きく進展させることができた。
独自に発見した 2 種の FemA 阻害剤について、化合物の結合様式の解明を目的に、共結晶の解析研究を推進していく予定である。また、当該年度のスクリーニングにより得られた候補株については、微生物の培養抽出液の中より、目的とする活性物質を単離・精製し、各種機器分析により、その化学構造を解明する予定である。この他、当初計画していた抗結核剤 calpinactam の作用機序の解析研究についても、プローブ合成や結合タンパク質の解析について推進する予定である。
当初、複数の化合物について作用機序の解析研究を並行して進めていく計画であったが、stemphone 類に関する研究が予想以上に大きく進展したため、本研究に重点を置き進めることとした。これに伴い、必要経費についても改訂の必要性が生じたため、その差額については次年度に繰り越すこととした。
次年度分として繰り越した金額については、初年度に実施予定であった化合物(calpinactam など)の研究に必要な試薬の購入に割り当てる予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Bioorg Med Chem Lett
巻: 26 ページ: 556-560
10.1016/j.bmcl.2015.11.073
Acta Pham Sin B
巻: 5 ページ: 564-568
10.1016/j.apsb.2015.07.010