近年、薬剤耐性菌や多剤耐性菌は社会問題となっており、耐性菌に対して有効な薬剤や新たな創薬ターゲットの発見が求められている。このような背景のもと、本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、結核症・非結核性抗酸菌症や真菌症に焦点を当て、その生育阻害剤、既存の抗細菌薬の増強剤や病原因子の阻害剤を微生物資源より開拓することを目的に進めている。また、興味深い抗感染症活性を示す化合物については、生化学的・分子遺伝学的な手法を駆使して、活性発現に重要な責任分子(標的分子)を同定するなどケミカルバイオロジー研究への応用を目指している。 1) 探索研究:生物活性の評価と独自のMSネットワーク手法を利用することで、希少な代謝産物を生産する数種の菌株を選別した。次いで、候補株のひとつである海洋由来放線菌OPMA02852株の培養液中より、Mycobacterium aviumに対する抗菌物質を単離精製し、各種機器分析により、四環性のキノン構造を有する新規 steffimycin類であることを明らかとした。また、この他の選択株からは、抗MAC活性物質としてgriseoviridin、etamycinやnosiheptideを同定した。 2) ケミカルバイオロジー研究:接合菌Rhizopus oryzaeに対して選択的な抗真菌スペクトルを有する抗真菌剤tanzawaic acid Bの結合タンパク質の解析のために、ビオチン標識体を作成した。次いで、この標識体が活性を保持することを確認し、R. oryzaeのタンパク抽出液の中より、化合物と親和性を示すタンパク質を検索した結果、標的候補タンパク質として、homoisocitrate dehydrogenaseを見出した。
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