本研究課題は、生命機能解明のツールとなるカチオンセンサーやバイオイメージング剤創製への展開を目指し、汎用性のある蛍光団の開発を目的として開始された。現在一般に用いられる緑色蛍光色素との並用や、生体内分子の自己蛍光によるバックグラウンドの影響を回避するためには、赤色蛍光色素の利用が有効である。前年度に、橙色~赤色発光するキナゾリン誘導体を合成できたため、これらの誘導体の構造を基盤とし、他の原子団や担体と結合可能な連結部を有する化合物の合成を試みた。一般に、共役系が伸びることで長波長側(赤色側)に蛍光性を示す傾向があるため、ほとんどの赤色蛍光色素は分子量450以上である。検出対象分子の機能への影響を最小に保つため、生体内分子のイメージングやプローブ用の蛍光団は小分子であることが理想であり、小分子かつ赤色蛍光を示す色素の開発が望まれる。研究代表者らがデザインした蛍光団は、基本骨格の分子量が300以下である。 様々な誘導体を合成する中、蛍光性キナゾリン誘導体と同じ基本骨格を持つにも関わらず無蛍光な誘導体を発見した。この化合物は固体状態でも溶液状態でも無蛍光である。発光性が失われたメカニズムを解明することで、蛍光のON-OFFを制御する分子デザインや、これを利用した分子プローブ開発が可能と考えた。そこで、この化合物に関して、各種溶液中での蛍光スペクトル、X線構造解析、NMRによる解析を行った。この結果、当該分子のソルバトクロミズムが確認でき、酸応答センサーとしての利用の可能性を見出した。
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