研究課題/領域番号 |
15K07869
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
橘高 敦史 帝京大学, 薬学部, 教授 (00214833)
|
研究分担者 |
高野 真史 帝京大学, 薬学部, 講師 (50386611)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ビタミンD / ビタミンD受容体 / 光反応 / スプラステロール / タキステロール / 骨形成 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
ヒト皮膚での光反応により、7-デヒドロコレステロールはプレビタミンD3に変換され、次いで体温による[1,7]シグマトロピー転位でビタミンD3が生成する。この過程は酵素が全く関与しない化学変換であり、生体内反応であるにもかかわらず、純粋な光反応により数種類の副生成物を体内にもたらす。プレビタミンD3への光反応ではタキステロールとルミステロールが、ビタミンD3への光反応ではスプラステロールⅠとⅡが同じく皮膚で生成する。これらの副生成物は、確実にヒト体内に存在するものの、ビタミンD受容体を介する作用は弱く、現在のところ積極的な生理的存在意義は未知のままである。 本研究課題では、詳細な生理活性が不明な光反応によるこれらビタミンD異性体を効率よく化学合成し、これまで我々がビタミンD誘導化で得た知見や受容体とのX線共結晶構造解析を活かして高度にその誘導化を施し、強い骨形成作用を有する誘導体を取得する。また一方では、受容体を介さない、すなわちホルモン量ではヒトの恒常性維持に関与していないが、ある程度の血中濃度でヒトの健康維持に関与し、脂質代謝や免疫系に働きかけている可能性が否定できないので、動物実験に堪えうる量を確保する合成法が望まれる。 平成27年度は、 1.タキステロールを安定な形で取り扱える8,9-ジヒドロタキステロール全4種の異性体合成に成功した。 2.スプラステロールについては、ビタミンD2とビタミンD3それぞれから光反応により、スプラステロールⅠとⅡを合計4種類合成に成功した。また、25-ヒドロキシビタミンD3からのスプラステロールⅠとⅡをそれぞれ合成することができた。 現在共同研究者とともに、以上10種の新規化合物の生物活性探索研究を進めている段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的とする初期の合成計画化合物であるスプラステロール(6種)と7,8-ジヒドロタキステロール(4種)について、合成と単離精製を完了することができた。後者4種のうち2種はプレビタミンD型の構造をとっており、このような化合物が得られることは当初考えていなかった予想外の生成物であり、それらを含めて新規ビタミンD誘導体の生物活性を調べることは今後の研究展開に重要な知見を与えるものと考えられる。 一方、ビタミンD3を不活性化する代謝酵素CYP24A1阻害剤を設計・取得し、合成したリガンド分子や活性型ビタミンD3の生体内半減期を増長する分子を開発する目的でも本研究課題は進行している。2α方向にテトラゾールエチル基を導入した活性型ビタミンD3誘導体において、CYP24A1による第一段階の代謝産物が、生物活性を有しながらCYP24A1への代謝抵抗性を示すことを見出した。この知見は、新たなビタミンD誘導体の分子設計に重要な指標を示すものと考えられる。現在、第一段階の代謝産物の生物活性を調べている。 7,8-cis-19-ノルビタミンD3合成にも成功し、活性的には弱いものの、ビタミンD受容体とのX線共結晶構造解析を進めることができ、構造的には重要な知見が得られた。成果が英文論文として受理され、現在印刷中である。
|
今後の研究の推進方策 |
スプラステロールは25位OH基の有無で、脂質代謝に影響を及ぼすことが示唆され、どのような作用機序であるのか、今後共同研究で検証していく方針である。スプラステロールに生理活性があることが初めて証明され、前例のない重要な知見であり、今後論文にまとめ発表する。 7,8-ジヒドロタキステロールは、14位のエピ体の合成に成功したもので、今後CD環天然型の7,8-ジヒドロタキステロールを合成し、生物活性を比較検討する方針である。 2α方向への複素環の導入は、CYP24A1による活性型ビタミンDの不活性化を阻害する化合物に発展する可能性があり、今後テトラゾール以外の複素環導入と代謝酵素阻害活性を調べる方針である。阻害剤が開発できれば、活性型ビタミンDやビタミンD製剤の生体内半減期を延長でき、より強力なビタミンD薬効を期待できる。また、偶然見出された2α-テトラゾールエチル置換活性型ビタミンD3の代謝産物が、ビタミンD受容体のアゴニストとして重要との知見から、そのものの大量合成によるより詳細な生物活性探索と骨形成作用のメカニズム解明を進める方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度3月末から4月にかけて国際会議(19th Workshop on Vitamin D、米国・ボストン)に参加・発表・座長を務め、その後海外研究協力者(ボストン大学医学部・T. C. Chen教授およびCelgene社Vise President・竹下健一博士)とミーティングをした関係で、旅費の支出分がまだ確定・反映されていないため。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記平成27年度末の海外出張旅費使用で支出し、残額があれば平成28年度の消耗品費として使用する計画である。
|