研究実績の概要 |
これまでの研究により,C2位にベンゼン環とシンナミル単位を有する1,3-シクロヘキサンジオン誘導体のアルケンのジヒドロキシル化反応で高いジアステレオ選択性でケタール化が進行することを明らかにすることができた.そこで,本法の生理活性化合物の不斉合成への応用を目指し,解決すべき課題の一つであるケタールの開環に関して検討を行った.まず,高いジアステレオ選択性で一方のカルボニル基がケタール化された化合物中のもう一方のカルボニル基の還元を試みた.しかし,水素化ホウ素ナトリウムではカルボニル基を還元することができず,ジイソブチルアルミニウムヒドリドのみが還元剤として機能した.なお,生成物の立体化学はケタールの酸素原子にアルミニウムが配位してアキシャル方向からヒドリドが接近したアルコールが優先的に生成することが明らかとなった. 続いて,水酸基をキサンテートに変換しChugaev反応によるアルケンへの変換を試みたが,構造不明な化合物のみが得られた.そこで,アルケンへの変換は後の段階で行う事とし,水酸基をベンジルエーテルとして保護した後,ケタールを酸性条件でヘミケタールに変換した.得られたヘミケタールに対してエポキシドへの変換を伴う開環などを種々の条件で試みたが,いずれも基質の分解あるいは構造不明の化合物が得られるのみであった.最終的に,還元的な開環反応を試みる事にしたが,メタノール中の水素化ホウ素ナトリウムによる還元では生成物は全く得ることができず,テトラヒドロフラン中でのみ望む反応が進行して,トリオールが得られることを明らかにできた.現在,1,2-ジオール部の酸化的開裂と還元的アミノ化によるアミノ基の導入を行い,Amaryllidaceae alkaloidsの一種である(+)-crinane,(+)-crinine,および(-)-amabilineの不斉合成を検討している.
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