研究課題
平成28年度は、suspended-state NMR測定を用いて、ボールミル粉砕により調製したindomethacin (IMC)/poloxamerナノ懸濁液及びpiroxicam(PXC)/poloxamerナノ懸濁液について評価を行い、各ナノ懸濁液の構造・分子状態を比較した。動的光散乱法及びcryo-TEM法により、両懸濁液では平均粒子径約250 nmのナノ粒子形成が認められた。運動性の抑制された成分すなわち固相成分が強調して観察される13C CP/MAS測定の結果、懸濁液中のIMCは結晶状態で存在しているのに対して、PXCは結晶質と非晶質状態として存在していることが明らかとなった。一方、運動性の速い成分すなわち溶解成分も観察できる13C PST/MAS測定を行うことで、ナノ懸濁液中のポリマーミセルとナノ粒子表面のpoloxamerの状態を区別して観察できた。IMC/poloxamerナノ懸濁液においては、poloxamerはIMC結晶の表面のみに吸着するのみで、他の大部分のpoloxamerはポリマーミセルとして存在すると考えられた。一方、PXC/poloxamerナノ懸濁液においては、poloxamerはPXC非晶質とより強く相互作用するためナノ粒子への吸着量が多く、結果としてポリマーミセルの量は少なくなったと推察された。以上の結果より、薬物とpoloxamerの相互作用の強さにより、薬物ナノ懸濁液の構造及び分子状態は大きく異なることが明らかとなった。これまでに、薬物ナノ懸濁液中の薬物やナノ粒子表面の界面活性剤の分子状態を報告した報告は限られる。本研究は、高品質のナノ粒子創製およびその評価法の確立に向けた有用な知見を与えるものと期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたPXC/poloxamerナノ懸濁液についての2次元測定は、検出感度の点から困難であった。そこで、代わりとして行ったIMC/poloxamerナノ懸濁液との比較検討により、薬物とpoloxamerの相互作用の強さについての知見を得ることができ、当初の目的はほぼ達成できたと考えている。
平成29年度は、新たにketoprofenをモデル薬物として用いる。そして、ビーズミル粉砕により調製したketoprofen/poloxamerナノ懸濁液について各種suspended state NMRの応用測定を行う予定である。本ビーズミル粉砕では、様々な条件(温度、せんだん力)でナノ懸濁液の調製が可能である。得られた結果に基づき、各ナノ懸濁液中のketoprofenとpoloxamerの分子状態と製剤特性(物理的安定性、分散安定性)の関連性を明らかとする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件) 図書 (1件)
Cryst. Growth Des.
巻: 17(3) ページ: 1055-1068
10.1021/acs.cgd.6b01410
J. Phys. Chem B
巻: 120(19) ページ: 4496-4507
10.1021/acs.jpcb.6b00939