研究課題
生体内には,ヒスチジンやアスパラギン酸のリン酸化を介した情報伝達機構がある。しかし,それらのリン酸基は化学的に不安定で多くは一過性の中間体である。しかし,ATPのアナログであるATPγSを用いたチオリン酸化反応を利用し,加水分解反応を受けにくい中間体を生じさせることで,これまでに不明であったタンパク質リン酸基転移反応中間体の存在を発見したり,その反応速度論を理解することが期待できる。本研究では,申請者らが独自に開発したフォスタグ(Phos-tag)技術を駆使し,チオリン酸化反応を追跡することが可能な分析技術を開発する。まず,チオリン酸化タンパク質を生体内の環境に近い条件で分離,濃縮する方法を確立する。申請者はこれまでに生理的(中性)pHでリン酸基を捕捉するというPhos-tagの特性を利用したリン酸親和性クロマトグラフィー法を開発している。ATPγSではγ位に結合した硫黄が通常のATPにおける酸素と比較して構造的に大きいが,Phos-tag との親和性があることを明らかにした。クロマトグラフィー法において,分離,濃縮が可能であるかどうかを検討している。また,Phos-tag SDS-PAGE法を用いて,生体内で起こりうるリン酸基転移反応の中間体の可視化を試みている。これまでに,大腸菌のヒスチジンキナーゼを用いたin vitroアッセイでは,ATP,あるいはATPγSのどちらを用いたキナーゼ反応においても,リン酸化した基質をシフトアップバンドとして分離し,可視化することに成功している。これまで迅速に進行する反応において,捉えることができなかった中間体を可視化することを目的としている。
2: おおむね順調に進展している
生体試料においてごく微量にしか存在しないリン酸化タンパク質を生体内の環境に近い条件で濃縮することは非常に有用な手法となる。そうした観点から,申請者はこれまでに生理的(中性)pHでリン酸基を捕捉するというPhos-tagの特性を利用したリン酸親和性クロマトグラフィー法を開発している。ATPγSではγ位に結合した硫黄が通常のATPにおける酸素と比較して構造的に大きいが,Phos-tag との親和性があるかどうかを調べた。ATPγSは培地中に添加しても細胞に取り込まれないため,チオリン酸化タンパク質を生体内で生じさせることはできず,検証のための試料の作成が課題となった。しかし,新鮮な細胞抽出液にATPγSを添加することで,細胞内のキナーゼ活性によって,多くのタンパク質がチオリン酸化することを確認した。そして,その反応物をPhos-tag クロマトグラフィーにかけ,チオリン酸化タンパク質が捕捉されるかどうかを検討した。チオリン酸化タンパク質の検出には,サンプルをPNBM でエステル化してから抗チオリン酸エステル抗体を用いた。その結果,チオリン酸化タンパク質はPhos-tag クロマトグラフィーによって捕捉されることを確認した。
新鮮な細胞抽出液にATPγSを添加したときに多くのタンパク質がチオリン酸化したが,これをPhos-tagクロマトグラフィーで分離,濃縮し,そこに含まれるタンパク質を質量分析法によって同定する。チオリン酸化タンパク質として存在するものの中には,これまで不安定であったために検出されなかったリン酸基転移反応の中間体が含まれる可能性がある。また,Phos-tag SDS-PAGE法を用いて,生体内で起こりうるリン酸基転移反応の中間体の可視化を試みる。これまでに,一過的な中間体を生じることを報告されているリン酸基転移反応の基質について,in vitroにおいてATPγSを用いたキナーゼアッセイを行い,チオリン酸化した中間体が検出できるかどうかを検証する。
旅費やポスター印刷に予定していた予算が削減でき,次年度使用額が生じた。
研究をさらに進めるための物品・試薬購入,旅費やポスター印刷など,来年度の予算として使用させていただく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) 図書 (4件)
PLoS One
巻: 11 ページ: e0148294
10.1371/journal.pone.0148294.
MethodsX
巻: 2 ページ: 469-474
10.1016/j.mex.2015.11.007.
Proteomes
巻: 3 ページ: 42-55
10.3390/proteomes3010042
Biochim. Biophys. Acta
巻: 1854 ページ: 601-618
10.1016/j.bbapap.2014.10.004.
分析化学
巻: 64 ページ: 501-509