研究実績の概要 |
当初の年度計画に従い, 1. LERE代表エネルギー項の評価方法の精密化, 2. LERE-QSAR解析の応用と検証を行った. 1.LERE代表エネルギー項の評価方法の精密化 タンパク質とリガンドとの重要な相互作用の一つである分散力エネルギーの定量的評価には, 非経験的分子軌道法によるMP2法や結合クラスター法 (CCSD(T))などの電子相関を十分に取り込んだ理論と質の高い基底関数を組み合わせが不可欠である. しかし, 計算時間上, これらの方法を大規模分子へ適用することは困難である. 計算コストの小さなHartree-Fock (HF)理論に対して, 付加的かつ簡便に分散力相互作用エネルギーを評価可能な経験的パラメータに基づく関数形を導入したHF-Dtq法の提案と検証を行った. 約150種類の多様な非結合分子間力錯体ならびに複数のアミノ酸側鎖間の相互作用モデルに対して, MP2・MP3法や分散力補正を導入した最近のDFT-D法の計算結果との包括的な比較から, HF-Dtqが誤差0.6 kcal/mol以下と高精度にCCSD(T)/CBSの分子間相互作用エネルギーを再現可能であり, MP2・MP3, DFT-D法よりも計算精度・時間の両面で有用であることを示した. 2.LERE-QSAR解析の応用と検証 阻害剤/基質とタンパク質の結合平衡過程への適用として, (a) 亜鉛含有タンパク質のHistone Deacetylase (HDAC)と一連のベンズアミド型阻害剤系, (b) HIV-1 proteaseとKNI-272を含む一連のアロフェニルノルスタチン型阻害剤系, (c) Papainと一連の馬尿酸フェニルエステル基質系を, 酵素触媒反応における速度論的過程への適用として, (d) Trypsinと一連の馬尿酸フェニルエステル基質系を対象に, 上記1で提案の新しい分散力エネルギー評価を導入した精密化LERE-QSAR解析を実施し, 高い化学的精度で実測の自由エネルギー変化を再現可能であることを示した.
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