研究課題/領域番号 |
15K07889
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 秀治 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (40207121)
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研究分担者 |
竹内 政樹 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 准教授 (10457319)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 滴定 / 流れ分析 / 自動分析 / フローレイショメトリー / ハイスループット / 気節法 |
研究実績の概要 |
フィードバック制御フローレイショメトリー(FBFR)は,本研究代表者らが考案した新規流れ分析法である。試料と標準液を,両者の流量比を連続的に変動しつつ合流させ,下流で得られる検出信号Vdと流量比(実際には流量を制御する制御信号Vc)との関係を解析することで目的情報(濃度や平衡定数)を得る。解析結果を流量比制御へとフィードバックさせることで,ハイスループット化を達成する。本研究では,FBFRの信頼性の向上をめざし,流量比を正確に反映したVdが得られるよう液流を気泡で分節し(分散を抑制),信号処理によって気泡信号を除去したのち解析を行う気節-非相分離FBFRの開発を目的とする。 平成27年度は,気相/液相の自動認識のためのアルゴリズムを導入した気節-非相分離FBFRのプログラム作成と分析システムの構築,酸塩基の直接滴定への応用による検証を実施計画とした。 まず,フローシステムの構築と,Excel VBAによる制御・計測・解析プログラムを作成した。空気流量の検討および気泡導入による分散抑制効果の確認を経て,ブロモチモールブルー(酸塩基指示薬)を含むNaOH標準液によるHClの滴定に応用し,走査速度など基本的分析条件を最適化した。気泡信号の認識のためにVdの変位と傾きに閾値を設定したが,当量点付近における液相Vdの急激な変化が気泡信号と誤認識されることがあった。検討の結果,Vdを2階微分することで,指示薬の色調変化に比べてより急激なVd変化を与える気泡の影響が強調され,気泡信号を認識・除去できることが明らかとなった。この成果を第52回フローインジェクション分析講演会および2015環太平洋国際化学会議において発表した。 一方,液流への気泡導入の精度はまだ十分ではなく,このことが気液信号の自動判別の信頼性にも影響を与えたので,「精度の高い気泡導入の達成」という課題が残された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
気節-非相分離フィードバック制御フローレイショメトリーのためのExcel VBAによる制御・計測・解析プログラムの作成およびフローシステムの構築については,計画通りに進行した。ハイスループット化の実現のため,フィードバック制御に引き続き,より狭い範囲をより高速で走査する固定三角波制御も導入した。各制御における走査速度,固定三角波制御における走査範囲等の分析条件を最適化した結果,1分あたり11.3滴定の効率を実現した。 気泡信号は鋭いピークとして液相信号の上に乗る。気節-非相分離検出法を導入した本研究代表者の従来研究(気節-非相分離振幅変調多重化フロー分析法)では液相信号の変化は緩やかであり,取得信号Vdの変位と傾きから容易に気泡信号を判別・除去できた。一方,フロー滴定に関する本研究では,当量点付近において急激な変化を示す液相信号と鋭いピーク形状を示す気泡信号との判別が難しく,液相信号を気泡信号と誤認識することがあった。検出信号を2階微分することで気泡信号を際立たせ,これを除去できることを見いだしたことは意義深いと考える。これらの研究成果は,第52回フローインジェクション分析講演会および2015環太平洋国際化学会議(招待講演)で発表することができた。 しかし,酸塩基の組合せや液性(pH)によって,気泡の間隔が不均一になったり液流によって気泡が小さく破断されたりすることがあり,広く活用できる気泡信号判別法を確立する(Vdの変位,傾き,2階微分値に普遍性のある閾値を設定)までには至らなかった。このため,平成27年度中の目標であった原著論文の執筆という段階までには至らず,やや遅れているという自己評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究において,今後の研究の発展のためには,まずは再現性のよい気泡導入を実現する必要があることが明らかとなった。平成28年度に入り(4月),気泡分節型連続流れ分析装置(オートアナライザー)の気泡導入部品(インレットブロック)を転用して導入したところ,気泡導入の精度がかなり向上した。今後は,気体の圧力を周期的に変動させ,一定の周期で気泡を導入するために,電磁ポンプによる送気,ピンチバルブによる送気チューブの周期的開閉を検討し,再現性のよい安定した気泡導入を実現したい。 続いて,これまでの吸光度検出だけでなく,発光ダイオードおよびフォトダイオードなどから成る簡易検出器を用いた透過光強度検出にも応用し,それぞれ,気泡信号認識のための変位,傾き,2階微分値について閾値を確立する。これらによって,信頼性の高い気節-非相分離フィードバック制御フローレイショメトリーのシステムを構築する。 その成果を,酸塩基滴定,キレート滴定,酸化還元滴定といったさまざまな滴定,逆滴定や間接滴定などのより複雑な滴定に応用し,本法の汎用性を明らかにする。反応に時間を要する滴定,3 流路以上 (試料流路や標準液流路に加え,第2の標準液や試薬溶液のための流路) が必要な滴定など,チャレンジングな反応系にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の設備備品費として,フォトダイオードアレイ紫外可視分光光度検出器32万円(高額な新品は購入困難のためリサイクル品)およびその制御システム48万円を想定していた。不測にも後者が入手困難となり,一般的な紫外可視分光光度検出器リサイクル品27万円の購入に留めたため,物品費の支出が抑えられた。2台購入の予定であった外部制御ペリスタポンプは,研究の進捗が若干遅れた関係で1台の購入に留めた(ただし値上がりにより,想定額33万円より高額の36万円となった)。国際会議で研究成果発表を行ったため,旅費およびその他経費(国際会議参加登録費)は,当初の予定を上回ったものの,上述の事由(制御システムの非購入,ペリスタポンプの購入控え)のために次年度への繰越額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進捗に合わせて,前年度に購入を控えたペリスタポンプを購入する。また,細管中の液流への精度の高い気泡導入が当面の解決すべき課題であることが明らかとなったので,これを実現するための電磁ポンプ,インレットブロック,ピンチバルブユニット,タイマーおよび制御装置を適宜購入してゆきたい(インレットブロック以下はそれぞれ1個ずつ現有しているが,研究の進行を速めるためシステムを2セット構築して実験を行っているので,さらに1個ずつ必要である)。また,吸光光度測定だけでなく透過度測定による滴定にも応用するため,発光ダイオードおよびフォトダイオードを組み合わせた簡易検出器も業者に特注する。
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