研究課題/領域番号 |
15K07890
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
岸川 直哉 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (90336181)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 化学発光 / HPLC / プレカラム誘導体化 / 紫外線照射 / ビオチン / 活性酸素発生 |
研究実績の概要 |
本研究では、活性酸素を発生する性質を持つキノンを標識試薬として用いて、反応を制御可能な化学発光分析法の開発を行う。 最初に、キノンをプレカラム標識試薬として用いるチオール類の HPLC-化学発光分析法の開発を行った。チオール類にキノンを添加することでマイケル付加体を生成させる。この付加体をカラムで分離後に、オンラインで還元剤 DTT 及びルミノールと混合してキノンから発生する活性酸素をルミノールにより検出する。このとき、標識に用いるキノンとしてはマイケル付加を起こしやすいメナジオンを選択した。弱アルカリ性条件下室温で放置することにより生成したマイケル付加体に還元剤 DTT 及びルミノールを添加したところ強い発光が観察され、付加体がキノン構造を保持していることが確認された。そこで、この化学発光反応を組み込んだ HPLC システムを構築してラット血漿へと応用した結果、生体内在成分の妨害を受けることなくチオール類を高感度に定量可能であった。 また、アントラキノン-2-カルボニルクロリドをアミン類の標識試薬として用いるための予備的検討として、エチルアミン及びフェネチルアミンをアントラキノン-2-カルボニルクロリドと反応させた化合物を合成した。合成した標識体に、ルミノールの共存下で紫外線照射を照射したところ、これらの濃度に応じた強い発光が生じることが確認された。 さらに、1,4-ナフトキノン及び 9,10-アントラキノンをそれぞれビオチンヒドラジドと結合させることで、ビオチン化ナフトキノン及びビオチン化アントラキノンを合成することに成功した。このうち、ビオチン化ナフトキノンについてはルミノール及び DTT と混合することで発光を生じることが確認され、ビオチン化アントラキノンはルミノール共存下で紫外線を照射することにより強い発光を与えることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画通りに、キノンをプレカラム標識試薬として用いる生体成分の HPLC化学発光分析法の開発及びビオチン化キノンの合成を行うことができた。前者の HPLC 法については、予定した紫外線照射による発光反応に加えて、還元剤の添加によっても活性酸素が発生してチオール標識体を化学発光検出可能であることも見出すことができた。開発した HPLC 法は最終的にはラット血漿中のグルタチオン等のチオール類の測定へと応用することで、その実用性を明らかにすることができた。後者のビオチン化キノンについては、ビオチンヒドラジドを用いることにより一段階の反応で比較的容易に合成できることが明らかとなった。また、ビオチンと結合後であってもキノンが活性酸素発生能を維持していることが確認でき、これらを用いる化学発光イムノアッセイの開発が期待された。これらの結果に加えて、アントラキノン-2-カルボニルクロリドが測定対象であるアミンと反応することでその発光強度が増大するという化学発光標識試薬として有用な性質を有することを見出した。 上記のように本年度の検討においては、HPLC 法の開発と生体分析への応用ならびにビオチン化キノンの合成という予定した研究計画を達成するとともに、標識試薬としてのキノンの有用性を更に拡大可能な興味深い知見をえることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討により、アントラキノン-2-カルボニルクロリドがアミン類の優れた標識試薬として利用可能であるとの知見が得られたことから、これをプレカラム標識試薬として用いる HPLC 化学発光分析法の開発を行うとともに、紫外線照射の有無により化学発光のオン/オフを制御可能であるかを確認する。さらには、ハロゲン化合物を対象とする標識試薬としてフェニルボロン酸部位を有するキノンの合成といった新たな標識試薬の開発を検討する。また、合成したビオチン化キノンを用いて、アビジン-ビオチン結合を介する化学発光イムノアッセイの開発に関する検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
HPLC システム一式の新規購入を予定していたが、他の研究に使用されていた HPLC 用装置の一部を本研究に使用できることになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
HPLC システムの維持・補修に関する経費として使用する予定である。
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