病巣部位選択的な薬物送達を目的とした肝臓表面への直接投与という新規の薬物投与経路を提案してきた。本手法の従来法からの優位性を評価する上で、担癌モデルマウスを用い抗腫瘍効果を検証する必要がある。マウスに適用する製剤の設計には、マウス肝臓表面からの吸収速度の推定が不可欠である。そこで本年度では、マウスとラットにおいて肝臓表面投与時の薬物動態に差異があるか調べるため、マウスにおいて拡散セルを用いて肝臓表面に各種薬物を投与し、肝臓表面からの薬物吸収性と分布を評価した。 マウスの肝臓に、拡散セルを貼付し、マーカー物質であるphenolsulfonphthalein(PSP)、抗がん薬5-fluorouracilあるいは分子量の異なるFITC-dextranを拡散セル内に滴下した。一定時間後に拡散セル内残存液を回収し、下大静脈から採血後、肝臓を採取した。拡散セル内残存率、血漿中および肝臓中薬物濃度を測定した。拡散セル内残存率の経時的変化より吸収速度定数kaを求め、見かけの透過係数Pappを算出した。 マウス肝臓表面からも一次速度式に従い吸収され、良好な薬物吸収が認められた。マウスにおいても分子量の増大に伴い吸収率が低下する傾向があり、Pappと分子量の平方根の逆数には良好な相関が見られた。ラットの肝臓表面からは分子量7万の物質が吸収されたのに対し、マウスでは4万程度が吸収の限界であることが明らかとなった。マウス肝臓表面からのPappはラットより低くなる傾向を示し、特に分子量が小さい物質でその傾向が顕著であった。静脈内および腹腔内投与と比較し、マウスにおいても投与部位に選択的で持続的なPSPの集積が認められた。したがって、マウスの肝臓表面投与において、特に低分子の薬物を適用する際は、ラットにおける吸収性との違いに留意する必要性が明らかとなり、今後の製剤設計を進める上で有益な知見が得られた。
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