本研究は、ポリスチレン(PS)を基板とするスフェロイド状細胞培養用基板の開発を目的に各種生体適合性高分子ブラシからなるハイドロゲル薄膜の合成とそのプラズマ表面処理による機能化を行うものである。 前年度までに、PS基板表面にタンパク質吸着抑制効果の高いpoly([2-(methacryloyloxy)ethyl]dimethyl-(3-sulfopropyl) ammonium hydroxide)(pMEDSAH)およびpoly(2-methacryloyloxyethy phosphorylcholine) (pMPC)の高分子ブラシ合成条件を確立し、また、それら高分子ブラシへの短時間プラズマ表面処理により、容易に側鎖官能基が分解することを明らかにした。本年度は、高分子ブラシ表面を細胞培養基材として応用すべく、まず、高分子ブラシの安定性を評価した。高分子ブラシは、PBS中において、その密度が低下している可能性が示唆された。一方、高分子ブラシの密度低下は、そのタンパク吸着抑制効果にはほとんど影響しないことが示唆された。そこで、PS表面に合成したpMEDSAHおよびpMPCブラシ表面において、直径100μmの細孔を有するマスクを介してプラズマ照射を行い、プラズマ照射部位と非照射部位のパターニングを行い、本基板表面でのHepG2の培養実験を実施した。HepG2はプラズマ照射部位にて細胞塊を形成し、3次元で長期的に培養可能であった。このとき細胞集合体のサイズは、プラズマ表面処理の際に施したマスクの細孔径により制御可能であった。また、プラズマ非接着部位における細胞接着抑制効果は、2週間以上継続した。本結果は、高分子を基板とする簡便なスフェロイド細胞アレイ調製の基礎となるものであり、今後、培養細胞の機能についても解析を進める予定である。
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