研究課題/領域番号 |
15K07894
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
奥田 健介 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00311796)
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研究分担者 |
永澤 秀子 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (90207994)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イメージング / 蛍光 / 薬学 / シグナル伝達 / 分析科学 / 高感度化 |
研究実績の概要 |
硫化水素(H2S)はガス状の生理活性物質として近年注目を集めている。その研究の歴史は浅いために未解明の点が多く残されているものの、神経伝達調節・平滑筋弛緩・細胞保護など様々な生理機能が明らかとなっている。そこで、生体に対するH2Sの働きを詳細に解明するために、生細胞内のH2Sを可視化する蛍光プローブやケージド化合物が開発され、H2Sをめぐる研究は著しい進展をみせている。 このように近年H2Sを「生きている」細胞で「生きたまま」観測する手法が確立されつつあるが、培養細胞に高濃度のH2S前駆体を投与した際の細胞内のH2Sを蛍光検出している例がほとんどであり、生理的条件下での詳細な議論が困難である。そこで本研究では、細胞内で発生したH2Sをトリガーとして自らH2Sを放出すると同時に蛍光分子を放出し、連鎖的にH2Sと蛍光を増幅して高感度に検出できるユニークなH2S増幅型センサー分子を創出することを着想し、研究に着手した。 まず、プロトタイプの第1世代蛍光プローブとして、芳香族アジドのH2S特異的な還元反応を引き金として1,6-脱離反応が進行して蛍光性化合物o-methylfluoresceinを放出することが期待されるH2S蛍光プローブ3'-{(4-azidobenzyl)oxy}-6'-methoxy-3H-spiro(isobenzofuran-1,9'-xanthen)-3-one (1)の合成を行った。次にプローブ1とH2Sとの反応性の評価を行ったところ、水中ではその反応速度は遅く、生理的な細胞応答におけるH2S変動をイメージングするには反応性が低すぎるものと考えられた。そこで、1,6-脱離反応を加速するべく電子供与性置換基としてアルコキシ基をアジド基のo-位に導入し、かつリンカー部位をエーテルから炭酸エステルに変換したモデル化合物を合成・評価したところ、反応性の向上が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
芳香族アジドのH2S特異的な還元反応を加速するべく電子求引性置換基の導入効果を当初検討していた。しかし、ニトロ基とアジド基を含む鍵中間体の合成に手間取り、さらにo-methylfluoresceinとの縮合反応におけるアルキル化で所望のエーテル化ではなくエステル化のみが進行したこともあってルートの変更を余儀なくされた。さらに、1,6-脱離反応を重ねて利用する当初の分子設計には構造上の複雑さに由来する合成の困難さに加えて反応速度の面でも不利であることが判明したために、分子設計の変更も行った。この間の検討過程に時間を費やしたために、研究の進捗が遅れている。その後、本反応における律速段階はアジド基の還元過程ではなく1,6-脱離反応であることが関連する研究結果より判明したため、後者を加速するべく電子供与性置換基の導入を行い、さらに脱離能を向上させるべく脱離基をalkoxideからcarbonateに変更した結果、H2Sに対して速やかに良好な反応性を有するturn-on型のプローブを得ることに成功した。以上、本年度においては、芳香族アジドのH2S特異的な還元反応を活用した脱離反応に基づく蛍光プローブ創製のための基礎的な知見は得られたものの、いまだH2Sシグナル増幅能を有するプローブの開発は端緒についた段階であるため、やや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1.シグナル増幅能を有する蛍光プローブの開発 次年度においては、本年度の時点で肉薄しているH2S特異的な反応に基づく蛍光プローブならびにシグナル増幅能を付与したH2S蛍光プローブを完成させ、H2Sとの反応性の評価を行う。実際のシグナル増幅能の程度を評価して、結果をプローブデザインにフィードバックし、望ましい性質を有する誘導体を選抜する。 次いで、in vitro培養細胞系でのH2S検出実験に適応し、プローブの妥当性を評価する。細胞透過性・毒性(MTT assay他)などに問題が認められた場合には、適宜物理化学的なパラメータを考慮した誘導体化を行うことによってプローブの性能向上を図る。 2.細胞内小器官局在性を付与した蛍光プローブの開発 さらに、上記で選抜された化合物をもとに、細胞内小器官局在性を付与したプローブの設計・合成を行う。導入する細胞内小器官指向性部位としては、ミトコンドリアおよびリソソーム局在性に関してそれぞれ信頼性の高い部分構造を適切に選択する。続いて、H2Sとの反応性を評価し、その結果をもプローブデザインにフィードバックさせ、望ましい性質を有する誘導体を選抜する。次いでin vitro培養細胞系に適応し、H2Sとの反応性および細胞内小器官への移行性の評価を行いプローブの妥当性を検証する。毒性あるいは細胞内移行性などに問題が認められた場合には、適宜物理化学的なパラメータを考慮した誘導体化を行うことによってプローブの性能向上を図り、分子の最適化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
134,663円と繰り越しが生じた理由としては、消耗品である試薬の使用見込みと実際の使用量との間に若干のずれが生じたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に引き続き、候補化合物の合成とH2Sイメージングの一次スクリーニング実験に関わる試薬、ガラス・プラスチック器具を必要とする。さらに次年度においては合成したプローブの二次スクリーニングならびに機能解析としてin vitro培養細胞を用いた実験系を予定しており、それぞれ培地、試薬、ガラス・プラスチック器具などの経費が必要である。さらに、日本薬学会年会(2017年3月、仙台)における成果発表のための国内旅費、および原著論文としての発表に要する学会誌投稿料を経費として用いることを計画している。
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