研究実績の概要 |
我々の体内には、アミノ酸やカルボン酸等の様々な代謝物(メタボライト)が存在している。またその中には、光学活性な代謝物も含まれていることが知られている。近年これら代謝物の網羅的解析から疾病に関連するマーカー分子を探索する試みが行われている。これら疾病の診断対象試料として、これまでは血液と尿が使用されてきたが、我々の研究から唾液、爪、毛髪においても濃度は低いものの血液と類似の代謝物が存在しうることを見出している。そこで、本研究では、非侵襲的試料である唾液、爪、毛髪を用いて、光学活性代謝物を含めたメタボライトプロファイリング解析から、疾病に関連したマーカー分子を特定し、早期診断に繋げることを目的とした。 まず初めに、光学活性代謝物を効率よく測定するため、アミノ基やカルボキシル基標識用の数種の光学活性試薬およびR,S反転試薬,ならびにそれらの安定同位体含有試薬を新規合成し、LC-MS/MS及び多変量解析を併用することにより光学活性代謝物を網羅的に検出する方法を開発した。次に、唾液、爪、毛髪を試料とし、疾病(糖尿病、慢性腎不全、乳がん、痛風等)との関連性を検討した。 唾液を用いた検討から、糖尿病では、D-乳酸の割合が健常者に比較し優位に高いこと、慢性腎不全患者の透析前後の比較から透析後にクレアチニンの濃度が劇的に減少することを明らかとした。また乳がん患者では、ポリアミン類の比率が健常者と異なることを明らかとし、統計解析から導きだした判別式から乳がんの進行度を予測できることを示した。一方、痛風患者の爪では、尿酸値が高いことを見出した。更に糖尿病患者毛髪では、数種のN-アセチルアミノ酸に優位な変動があることを明らかにした。 このように本研究から診断試料としての唾液、爪、毛髪の有用性が示唆された。従って本法は、患者に負担の少ない診断法となりうるものと期待される。
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