慢性閉塞性肺疾患(COPD)は世界の死亡原因の第3位(患者数2億人)であるのにもかかわらず、破壊された肺胞を修復する有効な根治療法は開発されていない。 そこで、本研究では、肺胞上皮幹細胞の分化誘導を基盤とした世界初の肺胞再生治療薬を開発することを目的としており、新規肺胞再生薬物の安定性評価と共に、作用部位への効率的なデリバリー技術を見出すことを目指して検討を進めてきた。また、COPDの患者は肺がんを併発していることが比較的多くみられており、このAm80が肺胞再生治療薬となるためには、肺がんを悪化させないことが必要条件である。我々はこれまでに、ssPalmが効率よく肺胞修復効果を誘導するドラッグキャリアーであることを明らかにした。新規肺胞再生治療薬の候補の一つであるレチノイン酸誘導体Am80に、肺がん細胞に対する増殖抑制効果およびヌードマウスに対し肺がん細胞を皮下移植したモデルに対する抗腫瘍効果を明らかにすることができた。また、我々が開発した粉末吸入システムであるOtsuka Dry Powder Inhalation (ODPI) Systemを難溶性薬物にも適用できるように改良し、ssPalmを含有する状態でのケーキ形成に成功した。 本年度は、ssPalmの最適となる製剤粒子径の大きさや薬物封入量を明らかにすることを目的に、薬効を示す最小投与量の決定、そのメカニズムの一部解明を行った。その結果、機能学的評価および呼吸機能評価において最小投与量を決定できた。また、肺胞修復効果がみられたドラッグキャリアーは、エンドソーム脱出能と核内の薬物移行量が高く、これらが薬効発現に重要であることを明らかにすることができた。
|