研究課題/領域番号 |
15K07903
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
山本 敦 中部大学, 応用生物学部, 教授 (60360806)
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研究分担者 |
松島 充代子 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (10509665)
川部 勤 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20378219)
小玉 修嗣 東海大学, 理学部, 教授 (70360807)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 呼気 / TDM / 呼気エアロゾル吸着剤 / テオフィリン / フェキソフェナジン / ゲフィチニブ |
研究実績の概要 |
研究初年度では、難揮発性薬物が呼気から排泄される機構として、血中より気道被覆液に移行した薬物が、胸腔の拡張・収縮によって飛沫化されることを提案した。更に、この被覆液には、肺胞の虚脱(閉塞して二度と開かないこと)を防ぐ目的でサーファクタントが多量含まれており、生成するエアロゾルは表面疎水性の水滴であることを証明した。これらを受け、本年度は表面疎水性と親水性を併せ持った多孔質吸着剤によるラット呼気回収実験を本格的に実施した。吸着剤の粒径と充填量を鑑み、吸着剤を定流量ポンプで吸引するアクティブサンプリング法を適用した。テオフィリンを静注したラット呼気からは、10分間当たりngレベルのテオフィリンが検出された。血中薬物濃度は順次減衰していくのに対し、呼気中薬物濃度は、投与後1時間付近に極値を迎え、以降減衰していった。このADMEに関しては、今後の検討課題である。 一方、ヒトによる呼気TDM実験も開始した。大学の倫理委員会の承認を受け、花粉症で医師よりフェキソフェナジン(商品名:アレグラ)を処方されている被験者一名より、呼気と穿刺による血液採取を行った。呼気中からは服用2時間後に1 L中よりngレベルのフェキソフェナジンが検出され、以後減衰していった。血中フェキソフェナジンの濃度推移もこれと極めて類似しており、呼気によるTDMの可能性を示唆した結果が得られた。今後は被験者数の増大と、呼吸法の検討を追求する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
呼気エアロゾルのラットを使ったアクティブサンプリング法で明らかになった点は、呼気の排出口と吸着剤の距離が重要なことである。エアロゾルは非常に微細、おそらく0.001 mm以下の粒子であり、吸着剤に到達以前に外気温の低下に伴い急速に凝固、導入管壁面への吸着が起こってしまう。この問題を解決してからは、ラット実験が急速に進展した。また、ヒト呼気採取用に、ガスマスク排気口に吸着剤充填部を配置した治具を作成することで、ヒト呼気実験も順調に邁進できた。 本研究の最終目標は、ヒト呼気によるTDMを実現することで、対象薬物としては肺疾患の治療薬、ゲフィチニブを選定した。本年度は、この薬物を特異的に捕捉可能な吸着剤の開発も実施した。柔らかな塩基性化合物である分子標的治療薬類のみを捕捉するために、柔らかな酸性官能基を持った吸着剤を適用した。銀イオンを配位結合のみで担持可能なチオウレア構造を有する官能基を導入した吸着剤を合成した。この銀担持吸着剤は、アセトニトリル中のゲフィチニブを特異的に捕捉できた。
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今後の研究の推進方策 |
この2年間の研究における現状での最大成果は、ラット実験において静注したテオフィリンの呼気排泄量が正確に把握できたことである。血中テオフィリン濃度と合わせて薬物動態学としての吸収・分布・代謝・排泄を明らかにしていきたい。少なくともこれまで、呼気からの薬物排泄は考えも及ばなかった。排泄器官は腎臓だけでなく肺も重要な役割を果たしていることを公表していく。 ヒト呼気実験によるフェキソフェナジンの回収結果は、被験者数を増やして血中との相関を明らかにしていく。呼気中のエアロゾル量は、呼吸法によっても変化することが想定されるため、血中との相関を測るためには呼吸法の確立も必要となる。 ゲフィチニブの呼気によるTDMは、呼気から吸着剤表面に捕捉した薬物を直接固相蛍光法で測定する「オンレジン法」によるベッドサイドモニタリングを想定している。平成28年度に開発した柔らかな酸型銀担持吸着剤をガスマスク捕集装置に具備し、薬用エタノールで洗浄後、オンレジン測定する装置・方法論を確立する。この装置を使った臨床実験を研究最終年度中に開始したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「今後の研究の推進方策」にも記載した通り、ラット呼気中のエアロゾル捕集法の確立に手間取ってしまった。このため、本格的なラット実験が行えず、予算の執行が滞った。
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次年度使用額の使用計画 |
吸着剤を使ったアクティブサンプリング法を確立した次年度においては、薬物の呼気からの排泄機構、ADMEを解明し、呼気TDMを現実化させるためにもラット実験を最大限繰り返したい。
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