研究課題/領域番号 |
15K07904
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
岡本 浩一 名城大学, 薬学部, 教授 (00308941)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 吸入粉末剤 / 噴霧急速凍結乾燥法 / 吸湿性 / 分散性 / 崩壊性 |
研究実績の概要 |
多孔性微粒子が得られる噴霧急速凍結乾燥(SFD)法により、賦形剤であるマンニトール(Man)に分散補助剤であるL-ロイシン(Leu)を添加した吸入粉末剤を調製した。その結果、5%以上のLeu添加により吸入特性が著しく改善されるとともに、吸入パターンおよび吸入デバイスの性能によらず優れた吸入特性を示す製剤が得られた。このLeu添加による吸入特性改善効果は添加量依存的な粒子間付着力の低下および帯電性の増加が寄与していることが示唆された。 一般にSFD法に由来する多孔性構造は比表面積を増大させ、吸湿性が大きな問題となる。5%Leu含有Man製剤は、十分な耐吸湿性を有していないことを予備実験により確認した。そこで7種類の疎水性アミノ酸を製剤中に99%含むSFD粉末吸入剤を調製し、加湿前後における吸入特性および粒子形状、結晶性へ与える影響を検討した。Leu、L-イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)からなる3製剤は吸入パターンおよび吸入デバイスの性能によらず高い吸入特性を示すとともに、加湿保存4週間後も加湿保存前と同等の吸入特性を示し、優れた耐吸湿性を示した。また、5%Leu含有Man製剤が吸湿するとSFD微粒子特有の多孔性構造が消失するのに対し、これら3製剤は加湿保存後も多孔性構造を維持し、優れた吸入特性を維持するためには多孔性構造の維持が重要であることが示唆された。 5%Leu含有Man製剤調製用水溶液の試料濃度(0.5、2。0、10%)を変化させることで粒子の崩壊性が異なるSFD微粒子を調製し、SFD微粒子の吸入気流中での構造崩壊/保持性が吸入特性に及ぼす影響について検討した。吸入沈着挙動と沈着粒子形状変化の関係から、肺深部送達には粒子構造の崩壊したものが適すると考えられるが、吸入抵抗が小さいデバイスを使用し、かつ低流量の場合は、粒子の崩壊しやすさよりも良好な分散性を有することが肺深部送達に重要であると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記載したように、耐吸湿性に優れた吸入粉末剤の調製および吸入過程で崩壊する吸入粉末剤の調製には一定の成果を上げている。しかし、平成27年度の研究計画では、①吸入特性評価で用いる呼吸器内を模倣した温度・湿度空間の構築と②アンダーセンカスケードインパクタ(ACI)用加湿チャンバーの作成を挙げていた。 ①の目的のために、ツインインピンジャ(TSLI)もしくはACIを収納できる温度調整機能付きグローブボックスを新たに設計・作成した。当初飽和塩水溶液を用いてグローブボックス内を所定の湿度に保つ予定であったが、実測したところ、予想よりも低い湿度にとどまった。そこで飽和塩水溶液を封入した柔軟な容器をグローブボックス内に設置し、湿度一定となった空気を吸入器に送り込むことで温度と湿度を制御することが可能となった。この点で、①の目的はほぼ達成できたと考えている。 ②のACI用加湿チャンバーであるが、形状がやや複雑であるため、いまだ設計段階にとどまっている。容器の形および体積を変更し、いくつか作成する予定である。②のチャンバーが完成しない限り、本研究テーマである「吸入時崩壊・膨潤型革新的吸入粉末剤の開発」の研究を進めることは困難である。平成28年度に、早急に②のチャンバーを完成する予定である。この点から、現在の進捗状況を「(3)やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ACI用加湿チャンバーの作成を優先して進める。本チャンバー完成後、平成27年度に作成した呼吸器内環境再現用グローブボックス内で種々の吸入粉末剤の分散性・崩壊性に及ぼす製剤組成、吸入器の種類、吸入パターンの影響を検討する。また、吸入粉末剤の吸湿性を簡便に評価する方法として、吸入粉末剤を短時間高湿度下に放置し、即座に粒子形を電子顕微鏡度で観察する。また平成27年度に本学分析センターに設置された動的水蒸気吸着測定装置(DVS)を用いて、吸湿性の評価を行う。 ManやLeuなどの生体に適合性の高い糖類・アミノ酸類を賦形剤とし、SFD法により微粒子を調製する。噴霧する際の試料溶液濃度、噴霧速度、凍結乾燥温度、凍結乾燥速度を制御する。複数の賦形剤を混合し、保管中(相対湿度75%以下)に製剤が吸湿せず、肺内環境(相対湿度95%以上)では崩壊した微粒子が吸湿する組成を見出す。適切な組成が見いだせない場合、賦形剤に用いる糖類・アミノ酸類の種類を増やし、またセルロース系高分子も検討に加える。 TSLIを用い、放出率とステージ2到達率を指標として吸入特性に優れた微粒子製剤をスクリーニング的に選択する。吸入器には吸入抵抗の低いシングルおよび吸入抵抗の高いリバースを用い、ヒト吸入パターン再現装置により、それぞれ健常人が吸入する場合の平均的な吸入速度・吸入体積・初期の吸入加速度で吸引する。 上記スクリーニングで高い吸入特性を示した製剤について、デュアルを含む吸入器3種と種々の吸入パターンを組み合わせ、TSLIにより吸入特性評価を行う。また、ステージ2に電子顕微鏡試料台を設置し、捕集された微粒子を電子顕微鏡で観察し、崩壊性を確認する。最終的に、吸入器・吸入パターンによらず、高い吸入特性および崩壊性を示す微粒子製剤3種類前後を選択する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況に記載したように、平成27年度に作成を予定していたアンダーセンカスケードインパクタ用加湿チャンバーが、設計段階にとどまり発注に至らなかった。申請時にはこのチャンバー作成費用として600,000円を計上しており、ほぼこの金額が次年度使用額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には、アンダーセンカスケードインパクタ用加湿チャンバーの完成を最優先で行う。
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