研究課題/領域番号 |
15K07908
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
秋澤 俊史 摂南大学, 薬学部, 教授 (30202526)
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研究分担者 |
小西 元美 摂南大学, 薬学部, 准教授 (20229446)
谷口 将済 摂南大学, 薬学部, 助教 (50710696)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プリオンタンパク質 / フラグメントペプチド / 分子間相互作用 / 凝集性 / 構造変化 / アポトーシス / 銅 / Catalytide |
研究実績の概要 |
背景・目的:前年度の検討より、ヒトプリオンタンパク質 の凝集にはC末端領域が関わっていると考えられた。本年度C末端領域のフラグメントペプチドである hPrP 180-192 中心に物理的性質、細胞毒性について検討した。 方法:相互作用はPull down assayと分子間相互作用測定装置(AFFINIX QNm)により検討した。立体構造解析にはCDスペクトルを用いた。凝集性は、蛍光色素チオフラビンTを用いて確認した。細胞毒性にはヒト神経芽細胞腫 SH-SY5Y株を用いて、アポトーシス誘導、WST8を用いた細胞増殖活性、およびCaspase-3の活性化を検討した。 結果:Pull down assayおよびAFFINIX QNmの結果、銅非存在下でhPrP180-192 同士の結合が見られたが、存在下では認められなかった。CDスペクトル測定では、溶液調製直後は銅の有無に関わらずランダムコイル構造をとっていたが、37℃インキュベート後は非存在下でβシートへ構造に変化した。これに銅を添加するとランダムコイル構造へと変化した。チオフラビンT では、銅非存在下で蛍光強度が増強し凝集がみとめられた。細胞毒性に関しては、hPrP169-189 で細胞増殖能の低下、 Caspase-3の活性化が認められたが、hPrP 180-192では確認できなかった。 結論:C末端領域が凝集性や細胞毒性に関与していることが確認でき、銅の関与はないことが示唆された。 考察:凝集の核となる領域と細胞毒性を示すために必要な領域にはわずかながら違いがあると考えられる。我々の発見した合成酵素ペプチド(Catalytide)が、hPrP180-192 を分解することを見出しており、次年度において、構造変化とCatalytide による分解の違いも検討し、凝集メカニズムの解明とともにCatalytideの作用も解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
種々のフラグメントペプチドを用いて検討した結果、ヒトプリオンタンパク質 の凝集と細胞毒性にはC末端領域が関与していることが明らかとなった。また、銅イオンは関わっていると考えられた。CDスペクトルの経時的測定により、C末端領域の立体構造変化は緩やかであり、それに伴い凝集性が増加することが明らかとなった。さらにこれらの作用に銅イオンの関与は無いことが示唆されたことより、正常なヒトプリオンタンパク質 (hPrPC) から凝集性の高い変異体 (PrPSc) への立体構造変化においては、銅イオンと核となるPrPScは必要ないことを示唆している。プリオンタンパク質の毒性発現の過程は、OP-repeat 領域で処理できなくなった銅イオンが中間領域に結合することで酵素耐性を獲得した後、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた hPrPC あるいはC末端領域を含むhPrP-FPの相互作用により凝集し、細胞毒性を示す可能性が示唆された。つまり、細胞外における銅イオン濃度は大きく影響するが、細胞内における構造変化や細胞毒性には銅イオンは影響しないと考えられる。この考え方はこれまでとは少し異なっており、新たなメカニズムを提示できる可能性が見えた。さらに、本研究において、我々の見出したCatalytide (低分子合成酵素ペプチド)がC末端領域由来のhPrP-FPを切断することをみいだしており、さらなる検討は必要であるが、CatalytideがPrPScを分解する可能性が見出された。このことは、当初の研究計画には含まれていないことではあるが、タンパク質凝集が原因となる様々な疾病の治療薬となり得ることが考えられることより、当初の研究計画以上に進展していると判断している。 Catalytide によるhPrP-FPs 分解活性に関しては日米に申請中の特許の一部として記載している。
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今後の研究の推進方策 |
hPrP180-192 の構造変化と凝集性に銅イオンは関与しないことが明らかとなった。一方、細胞毒性の発現には凝集性が関与していることが考えられる結果を得た。そこで、今後は次に列記する項目を検討し、構造変化、凝集性、細胞毒性の相関性を解明する。 1) hPrP180-192 の構造変化と銅イオン添加による構造回復を経時的に測定し、構造変化の速度を求める。 2) ランダムコイルとβ-シート構造のhPrP180-192を調製し、それぞれの凝集性と細胞毒性を比較検討する。 3) ランダムコイルとβ-シート構造のhPrP180-192の溶液中での立体構造をNMRで解析する。 4) ランダムコイルとβ-シート構造のhPrP180-192に対する、Catalytideの分解活性を検討する。 1) ~4) の結果を総合的に分析することで、プリオンタンパク質のC末端領域の毒性発現に対する役割を明らかにする。加えて、4) の結果により、Catalytide の医薬品への展開を考える。
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